古典文法講座第三回
古典文法講座 第三回
今回は、「動詞」です。
動詞は、動作や存在の仕方を表す語で、この性格は現代語でも変わりません。口語文法と異なるのは「活用の種類」が九つある(四段活用・上一段活用・下一段活用・上二段活用・下二段活用・カ行変格活用・サ行変格活用・ナ行変格活用・ラ行変格活用)点です。
物事というのは、時代が下るにつれて複雑になるというのが常識かもしれません。それは言葉も同じか、というと、そう単純ではないのです。ある領域は複雑化しますが、別の領域は単純化する、ということが起こるのです。動詞の「活用の種類」は、実は単純化され、口語文法では五つに統合されています。どのように統合されたか、下に示しておきます。
四段活用・下一段活用・ナ行変格活用・ラ行変格活用 → 五段活用
上一段活用・上二段活用 → 上一段活用
下二段活用 → 下一段活用
カ行変格活用 → カ行変格活用
サ行変格活用 → サ行変格活用
「活用の種類」が九つもあると、ある動詞が、どの活用パターンで活用するのか、判断に困る、と思うかもしれませんが、心配は無用です。九つのうち、六つまでは所属する動詞が少ないので、覚えてしまえば終わりです。残り三つは打消の助動詞「ず」を付けることで判断できます。このことを整理しておきましょう。
まずは、所属動詞が少ないので覚えておく活用の種類です。
この中でもっとも数が多いのが上一段ですが、「き・み・に・い・ひ・ゐ+る」と覚えておけば、簡単に覚えられます。他には、「ひ・い・き・に・み・ゐ+る」という覚え方もあるようです。これ以外は1~4語ですから、問題はないでしょう。
さて、残った「四段活用」「上二段活用」「下二段活用」は、それぞれ多くの動詞が所属していて、覚えるのは得策ではありません(ただし、慣れてくると、瞬時に見分けられるようにはなってくるのですが)。そこで、動詞に打消の助動詞「ず」を付けて、活用語尾から判断する、という判別の仕方を用います。以下にまとめておきます。
ご覧の通り、これらの動詞に「ず」を付けると、「ず」の直前の部分が、ア段、イ段、エ段に分かれます。これを利用して、四段、上二段、下二段を判断するのです。なお、慣れないうちは、「ず」の代わりに「ない」を使うという逃げ道もあります(咲く→咲か・ない、など)。
さて、九つの「活用の種類」が、どのような活用パターンになるのかをまとめたのが次の表です。
この表で、四段~上一段にはローマ字の部分がありますが、これは「母音」を表しています。これに「子音」を加えると、各動詞の活用となります。
例えば、「咲く」という四段活用の動詞ですと、語幹(動詞の活用しない部分)は「咲」、活用語尾「く」はカ行になりますから、「子音」は「k」。
ka・ki・ku・ku・ke・ke = か・き・く・く・け・け
これで「咲く」の活用表が完成します。なお、動詞の「活用の種類」を解答する場合は、何行で活用するかを示しておくことが通例です。例えば「咲く」なら、「カ行四段活用」と解答します。ここで注意しておきたいのは、上二段・下二段・上一段などで、活用しているのはローマ字の部分であることです。「る」「れ」「よ」は、言ってみれば活用に付随する「尻尾」。なので、例えば上一段活用「着る」は、カ行上一段活用です。当然、「ラ行」でも「ヤ行」でもありません。これは口語文法の「上一段」「下一段」でも同じことですね。
ちなみに、下一段~ラ変は、活用「行」が限定されるので、各一種類で終わりです。
それでは、次の活用表を完成させてみてください。
さて、本文中の動詞を文法的に判断する場合には、次の手順を踏みます。
①所属動詞が限定されている動詞かどうかを判断する。
②そうでない場合は、「ず」を付けて、活用語尾を確認する。
③以上、いずれかにより、活用の種類を決定する。
④次に、未然形~命令形まで活用させる。
⑤この活用表をもとに、活用形を決定する。
慣れてくるとこの手順を踏まなくても瞬時に判断できるようになります。ただし、これだけでは活用形を決定できない場合もあります。というのも、異なる活用形に同一の文字が存在する場合があるからです。例えば、「花咲くべし」「花咲く時」というような場合、両者とも同じ形をしているのですが、実際には、前者は終止形、後者は連体形という違いがあります。これを判断するには、後に続く語が何形接続であるかを知らねばなりません。下に用言が来ていれば連用形、体言が来ていれば連体形等は容易でしょうが、やっかいなのは助動詞や助詞です。これに関しては後日まとめることとします。
ところで、品詞分解をする際、「どこからどこまでが動詞かわからない」という声をたまに耳にします。そういう場合は、次の手順を踏んでみてください。
①語幹(変化しない部分)を決める
②その直後までが動詞
③ただし、活用の尻尾「る」「れ」「よ」に注意、そこまで動詞
(例)
①何とも思はずや 語幹「思」-直後「は」→「思は」が動詞
②四十にたらぬほどにて死なん 語幹「死」-直後「な」→「死な」が動詞
③老いをむかふる者 語幹「むか」-直後「ふ」-尻尾「る」→「むかふる」が動詞
他には、打消の助動詞「ず」を接続させ、活用させて動詞の範囲を決める方法もあります。
(例)
①舅にほめらるる婿 ほめ-ず→め・め・む・むる・むれ・めよ→「ほめ」が動詞
②宵過ぐるほどに 過ぎ-ず→ぎ・ぎ・ぐ・ぐる・ぐれ・ぎよ→「過ぐる」が動詞
こうした見分けも、やはり慣れてくるとほとんど問題なく対応できるようになります。
では、次の問題を解いてみてください。
練習2 次の文中から動詞を抜き出し、文法的に説明せよ。
※「文法的に説明せよ」という場合、用言ならば「品詞・活用の種類・活用形」の順で記します。また、音便化している場合は、その種類を最後に記します。音便については、次回説明します。なお、今回は品詞が動詞であるということは明確ですが、練習ですので、品詞まで記しましょう。
あからさまに聖(しやう)教(げう)の一(いつ)句(く)を見(み)れば何(なに)となく前(ぜん)後(ご)の文(ふみ)も見(み)ゆ。率(そつ)爾(じ)にして多(た)年(ねん)の非(ひ)を改(あらた)むることもあり。
①( ) ②( )
③( ) ④( )
【ヒント】「見ゆ」は下二段の動詞です。
今回はここまでにします。第一回から第三回までの復習問題を掲載しますので、やってみてください。その解答は次回掲載します。
頑張ろう、東高!
練習2・解答
①「見れ」-動詞・マ行上一段活用・已然形
②「見ゆ」-動詞・ヤ行下二段活用・終止形
③「改むる」-動詞・マ行下二段活用・連体形
④「あり」-動詞・ラ行変格活用・終止形