校長だより

古典文法講座第五回

古典文法講座 第五回

 今回は、「形容詞」と「形容動詞」を扱います。
 「形容詞」は、終止形が「し」で終わる用言です。物事の性質や人の心情を表し、「ク活用」と「シク活用」の二つの活用の種類があります。「ク活用」は性質を表す語が多く(よし、高し、赤し、など)、「シク活用」は心情を表す語が多い(をかし、かなし、あさまし、など)という傾向があります。また、どちらも主活用の他に、「カリ活用」を持つことが特徴です。
 形容詞のある語が「ク活用」か、「シク活用」か見分けるには、助詞の「て」を接続させるといいでしょう。「ク活用」なら「くて」となり(よし→よくて)、「シク活用」なら「しくて」となります(美し→美しくて)。
 ちなみに、「シク活用」の活用パターンは、「ク活用」に「し」を加えたもの(終止形を除く)なので、そのことだけ理解しておけば十分です。
 では、活用表を示しておきます。

 形容詞は、もともとは主活用だけが存在していたようです。しかし、形容詞を述語として用いる場合、助動詞を接続することができませんでした。これはとても不便なので、形容詞の連用形に動詞「あり」を接続させ、そこに助動詞を接続させる、という形が生まれました。例えば、次のようなものです。
[例1] 高く・あら・む
 そして、この形容詞・連用形の「く」と動詞「あり」が融合して、「カリ活用」が発生したのです。
[例2] 高から・む
 したがって、「カリ活用」はラ変型活用です。そして、助動詞が接続する未然形・連用形・連体形と、主活用では存在しなかった命令形だけが「カリ活用」として配置されることになったのです。こういう経緯がありますから、活用パターンを覚える場合は、まず主活用「く・く・し・き・けれ」を覚え、その上で「カリ活用はラ変だ」としておくと、覚えやすいでしょう。

 さて、ここで二つほど、留意点を挙げておきます。
 第一に、未然形「く」「しく」は、「くは」「しくは」の形でだけ出現する、ということです。これらは「もしも~ならば」という意味になります(文法的には、「仮定条件」といいます)。詳細は助詞のところで説明します。
 第二に、形容詞「多し」のカリ活用は、終止形に「多かり」、已然形に「多かれ」という形を持つので注意してください。これは難易度の高い大学で問われることがあります。

 ここで形容詞の音便も確認しておきましょう。形容詞の音便は次の三つです。
①連用形「く・しく」→ウ音便=「う・しう」
 例 よく→よう、をかしく→をかしう
②連体形「き」「しき」→イ音便=「い・しい」
 例 たかき→たかい、かなしき→かなしい
③連体形「かる」「しかる」→撥音便=「かん、しかん」
 例 赤かる→赤かん、あさましかる→あさましかん
 
 形容詞ではもう一つ、「語幹用法」を覚えておきましょう。
1 「あな、【形容詞の語幹】」「【形容詞の語幹】の~や」で感動表現となる。
 例3 あな、をさなや…ああ、おさないこと
    めでたの人や…すばらしい人だなぁ

 この形は、現代語でも「ひど!」「やす!」と言ったりするのでなじみがあると思います。
 さて、次のパターンは確実に押さえてください。とても重要です。
2 「~を【形容詞の語幹】み」の形で、「~が…なので」の意味になる。
 例4 かたをなみ…干潟がないので
    里遠み…人里が遠いので(「を」が省略されることもある)

 形容詞はここまでです。
 次は、「形容動詞」です。
 形容動詞は、主として状態を表す用言で、「ナリ活用」と「タリ活用」があります。ひと目ですぐそれとわかりますが、連用形の「-に」「-と」の形には注意が必要です。

 活用表は次の通り。

 活用パターンは連用形だけ注意しておけば、あとはラ変型ですから、覚えるのにそんなに苦労はないでしょう。ちなみに、「ナリ活用」は和語的、「タリ活用」は漢字の反復を語幹とするので漢語的という違いがあります。

 それにしても、形容動詞はなぜ連用形にだけ「-に」「-と」という活用語尾を持つのでしょうか。これは次のように考えると合理的です。
 「-に」「-と」という形態の方が最初にあり、それに「あり」が接続・融合して「なり」「たり」という活用が発生したのだ、と。
 つまり、例えば「静かに」という形がまずあり、活用はなかった。これは自立語・活用なし・連用修飾語ですから、品詞は副詞になります。この副詞が、動詞「あり」に接続すると、「静かに・あり」となる。意味としては「静かな状態だ」ということでしょう。つまり状態を表現する述語が生まれるわけです。さらに、「に・あり」が融合して「なり」になる。形容動詞の誕生です。
 これは一つの仮説ですが、こう考えれば、形容動詞の連用形に「-に」「-と」という形があることが説明できると思います。

 さて、形容動詞の音便ですが、「ナリ活用」にだけ音便があり、連体形の「-なる」に推定系の助動詞「なり」「めり」が接続すると撥音便となり、「なん」になることがあります。

形容動詞の音便
 ナリ活用連体形 「-なる」+「なり/めり」→撥音便=「-なん・なり/めり」
 例 静かなる・なり→静かなん・なり
 ※撥音便は無表記になることが多いので注意

 では、形容詞、形容動詞について、練習してみましょう。

練習1 傍線部の語を文法的に説明せよ。
①木のさまにくげなれど、楝(あふち)の花いとをかし
②世はさだめなきこそ、いみじけれ
③侍(さぶら)ふ人も、さうざうしげなめり。
④翁(おきな)やうやう豊かになりゆく。
⑤汝がためにはよい敵(かたき)ぞ。

①にくげなれ   (                      )
 をかし     (                      )
②なき      (                      )
 いみじけれ   (                      )
③さうざうしげな (                      )
④豊かに      (                      )
⑤よい       (                      )

練習2 次の和歌について、空欄部を埋めて口語訳を完成させよ。
 [和 歌]湊風さむきうきねのかり枕都を遠み妹夢にみゆ
 [口語訳]港に吹く風が寒々とする、つらい船旅の宿りでは(          )あなたと夢でお会いしました。

 今回はここまでにしておきましょう。
 なお、前回と今回を範囲とする復習問題を掲載しますので、やってみてください。解答は次回に掲載します。また、末尾に前回の補強問題の解答を載せておきます。

 頑張ろう、東高!

練習1・解答
①にくげなれ   ( 形容動詞・ナリ活用・已然形         )
 をかし     ( 形容詞・シク活用・終止形          )
②なき      ( 形容詞・ク活用・連体形           )
 いみじけれ   ( 形容詞・シク活用・已然形          )
③さうざうしげな ( 形容動詞・ナリ活用・連体形・撥音便・無表記 )
④豊かに      ( 形容動詞・ナリ活用・連用形         )
⑤よい       ( 形容詞・ク活用・連体形・イ音        )

※「なし」は形容詞です/「いみじ」は、語尾が濁音ですが「シク活用」です。

練習2・解答
 [口語訳]港に吹く風が寒々とする、つらい船旅の仮寝では( 都が遠いので   )あなたと夢でお会いしました。

 復習問題2

 次の本文を読んで、以下の問いに答えよ。

 おほかた、この所に住みはじめし時はあからさまと①おもひしかども、今すでに五年を②たり。仮の庵も③ややふるさととなりて、軒に朽葉(くちば)深く、土居(つちゐ)に苔むせり。④おのづから事のたよりに都を聞けば、この山に籠(こ)もりゐて後、⑤やむごとなき人の⑥(かくる)たまへるもあまた聞こゆ。ましてその数ならぬたぐひ、尽してこれを知るべからず。たびたびの炎上に⑦滅びたる家またいくそばくぞ。ただ仮の庵のみ⑧のどけくして、恐れなし。ほど狭しといへども、夜臥(ふ)す床あり、昼⑨ゐる座あり、一身を宿すに不足なし。寄居(かむな)は小さき貝を好む。これ事知れるによりてなり。みさごは荒磯にゐる。すなはち人を⑩恐るるがゆゑなり。われまたかくのごとし。事を知り、世を知れれば、願はず、わしらず、ただ⑪静なるを望み、憂へなきを楽しみと⑫す。

問一 傍線部①、⑤、⑦、⑧、⑨、⑩、⑪、⑫を文法的に説明せよ。

問二 傍線部②は動詞の連用形である。読み仮名を記せ。

問三 傍線部③、④の古語の意味を記せ。

問四 ⑥(かくる)は、「亡くなる」という意味の動詞であるが、ここでは連用形にするのが適当である。「かくる」の連用形を記せ。

補強問題1A(品詞) 解答

1 次の単語の品詞を、以下の選択肢か選んで、記号で記せ。

 ①受く  ②されど  ③かかる  ④なし  ⑤さらに  ⑥あな
 ⑦しのぶ草  ⑧こそ  ⑨恐ろしげなり  ⑩けり

 選択肢
  ア 名詞  イ 連体詞  ウ 副詞  エ 接続詞  オ 感動詞
  カ 動詞  キ 形容詞  ク 形容動詞  ケ 助動詞  コ 助詞

2 次の傍線部の語の品詞を、1の選択肢から選んで、記号で記せ。

 よろづのことは、月見るにこそ①慰むものなれ。②ある人の、「月ばかり③おもしろきものはあらじ」と言ひしに、④またひとり、「露こそ⑤あはれなれ」とあらそひしこそをかしけれ。折にふれ⑥、⑦かはあはれならざら⑧。月花はさらなり、風のみこそ、人に心はつくめれ。岩にくだけて⑨清く流るる水のけしきこそ、時をもわかずめでたけれ。「沅・湘日夜東に流れ去る。愁人のためにとどまること⑩しばらくもせず」と言へる詩をば見はべりしこそあはれなりしか。


1 ①(カ ) ②(エ ) ③(イ ) ④(キ ) ⑤(ウ )
  ⑥(オ ) ⑦(ア ) ⑧(コ ) ⑨(ク ) ⑩(ケ )

2 ①(カ ) ②(イ ) ③(キ ) ④(エ ) ⑤(ク )
⑥(コ ) ⑦(ア ) ⑧(ケ ) ⑨(キ ) ⑩(ウ )

 

 

 

 

 

 


補強問題1B(動詞1) 解答

1 次の動詞の活用の種類を、以下の選択肢から選んで記せ。

 ①見る  ②死ぬ  ③思ふ  ④蹴る  ⑤受く
 ⑥をり  ⑦過ぐ  ⑧おはす  ⑨来

 選択肢
  ア 四段  イ 上一段  ウ 上二段  エ 下一段  オ 下二段
  カ カ行変格  キ サ行変格  ク ナ行変格  ケ ラ行変格

2 次の傍線部の動詞の、活用の種類(必ず行も記すこと)と活用形を記せ。

 ①「いかにぞ」と問へば、
 ②牛のかぎり引きいでて往ぬる
 ③来る音のすれ
 ④夏果てず。
 ⑤あの扇の矢を


1 ①(イ ) ②(ク ) ③(ア ) ④(エ ) ⑤(オ )
  ⑥(ケ ) ⑦(ウ ) ⑧(キ ) ⑨(カ )

2 ①(ハ行四段・已然形  ) ②(ナ行変格・連体形  )
  ③(サ行変格・已然形  ) ④(タ行下二段・未然形 )
  ⑤(ヤ行上一段・連用形 )

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