1学期始業式 校長講話
私の尊敬する人物に服部匡志(はっとりただし)さんという方がいます。眼科医なのですが、ちょっと変わったお医者さんです。普通、医者というと、どこかの病院に勤めているか、あるいは開業医としてクリニックなどを経営しているか、どちらかでしょう。しかし、服部先生は、何処の病院にも属さない、フリーのお医者さんなのです。
服部先生は、日本中、あちらこちらの病院で患者さんを診て、治療し、報酬をもらう。名医として有名なので、どこへ行っても患者さんはいっぱいです。そうやって半年は暮らす。では、残りの半年はどうしていると思いますか。実は、服部先生は、残りの半年、ベトナムにいるのです。そして無償で、ベトナムの患者さんを診療しているのです。ベトナムにはまだまだ貧しい人が多い。治療を受けられない人がたくさんいる。そういう人々を救っているのです。
どうして服部先生はこういうことをしているのでしょう。きっかけは、お父さんでした。服部先生のお父さんは、服部先生が高校2年生の時、癌で亡くなりました。そのお父さんの遺書には、こう書かれていました。
「お母ちゃんを大切にしろ。人に負けるな。努力しろ。人のために生きろ」
この「人のために生きろ」というお父さんの言葉をしっかりと受けとめ、服部先生は医者を目指したのです。
しかし、人生の目標へと向かう道のりは、決して楽なものではありませんでした。第一志望である大学の医学部に入るために、4年も浪人してしまいます。周りの人たちは妥協しろ、と言います。しかし、服部先生はあきらめません。お父さんの言葉を胸に努力を続け、ついに合格を勝ち取るのです。そしてその後も研鑽を続け、名医と呼ばれるまでになるのです。
ある日、そんな服部先生の耳に、ベトナムの人々の苦しい現状が届きます。そしてその時、再び、お父さんの言葉が甦るのです。「人のために生きろ」というあの言葉が。
今でも、服部先生は、半年は日本でフリーの医者として活躍し、そして半年はベトナムにいます。すばらしい方だと、私は心から尊敬しています。
さて、生徒の皆さんに、服部先生から学んで欲しいことが二つあります。
一つは、目標に向かって努力を続け、決して目標をあきらめない、ということです。目標に向かっていく日々のうちには、きっと辛いときもあるでしょう。しかし、服部先生はこう言っています。「苦難の日々が、私を成長させてくれた」と。苦難を乗り越えることで人は成長していくのです。
もう一つは、「苦しんでいる人、困っている人を助ける人になって欲しい」ということです。服部先生は本を書いているのですが、そのタイトルは、「人間は、人を助けるようにできている」です。本当にそう思いますし、皆さんにもそういう人として成長して欲しい。
さあ、今日から新しい年度が始まります。強い意志と優しい思いやりをもって、すばらしい一年にしていきましょう。