校長だより

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古典文法講座第八回

古典文法講座 第八回

 今回は「推量の助動詞」から入ります。このグループは一番数が多いので、覚えるのがちょっと大変かもしれませんが、やはりペアにして覚えていくとわかりやすいと思います。 まずはこのグループを、A「む」「じ」「けむ」「らむ」、と、B「べし」「まじ」「なり」「めり」「らし」「まし」の二つに分け、そのうえで二つずつペアにして押さえていきます。

5 推量 「む」「じ」「けむ」「らむ」「べし」「まじ」「なり」「めり」「らし」「まし」

 A「む」「じ」「けむ」「らむ」

  a1「む」(「むず」)
   ①意志[~しよう]  【主語=一人称】
   〈例〉いま帰りこ 〈訳〉すぐに帰って来よう
   ②適当[~のがよい] 【主語=二人称】
   〈例〉心にこそあら 〈訳〉思いのままにするがよい
   ③推量[~だろう]  【主語=三人称】
   〈例〉十ばかりにやあら 〈訳〉十歳ぐらいであろう
   ④婉曲・仮定[~ような…・~としたらその…] 〈体言が下節〉
   〈例〉配所の月、罪なくて見事 〈訳〉配所の月を、罪なくして見るようなこと

  a2「じ」
   ①打消意志[~まい、~ないつもりだ]
   〈例〉寝殿に鳶ゐさせ 〈訳〉寝殿に鳶をとまらせまい
   ②打消推量[~まい、~ないだろう]
   〈例〉よものがれさせたまは 〈訳〉まさかお逃げにはなれますまい

 推量の助動詞「む」の意味は多岐にわたりますが、比較的見分けはしやすいでしょう。「む」を含む述語部の主語が一人称なら①「意志」、二人称なら②「適当」、三人称なら③「推量」、というのが原則です。ただし、あくまで原則ですから、必ず文脈は参照してください。こうした「む」の性格は、英語のwillとよく似ています。
 なお、②「適当」は例文にもあるように、「こそ~め」の形をとることが多い、というのもひとつの目安になります。また、①「意志」は、「~たい」と、願望風に訳した方がしっくりくる場合がありますので、一応知っておいてください。
 ④「婉曲・仮定」は、「む」の下に体言(名詞)が来る、という形式から判断できるのですぐにわかります。「仮定」はあまり出てきませんので、当面「婉曲」中心で考えておけばいいと思います。
 「婉曲」は訳出しない方が文意が通りやすい場合には訳出しません。
 〈例〉これが成らさまを見む 〈訳〉これが成長する様子を見よう
 また、「む」の直後に無音の形式体言(の/こと)が隠れている場合は「婉曲」で訳します。
 〈例〉本性見えこそ、口をしかるべけれ 〈訳〉本性が見えるようなことは残念だ

 a2「じ」は、「む」の打消です。ただし意味は二つで、原則、主語が一人称なら①打消意志、三人称なら②打消推量、とするのも「む」と共通しています。ちなみに「じ」は、「~まい」と訳すと、打消意志でも打消推量でも通用するので便利です。

※「む」の中心的な機能は、「想起」です。つまり、「あたまに思い浮かべている」という状態を表すのです。一方、一見似ている助動詞に「べし」がありますが、この中心機能は「確信」です。「当然そうだ」という確信を表すのが「べし」なのです。そのニュアンスを少し強調したのが次の例です。
 〈例〉われも行かむ。  〈訳〉わたしも行こうかなぁ。
 〈例〉われも行くべし。 〈訳〉わたしもぜったい行く。
つまり、「む」はぼんやりしているのに対し、「べし」はきっぱりしている、といえるかもしれません。この「ぼんやり」感がクッションとして働くのが「婉曲」用法です。
 〈例〉かけとむ方なきぞかなしき。 〈訳〉引き留める方法がないのが悲しい。
 〈例〉かけとめ方なきぞかなしき。 〈訳〉引き留めるような方法がないのが悲しい。
例のように、用言と体言をダイレクトに結びつけるのではなく、「やわらかく」結びつける「婉曲」用法は、「む」の中心機能に依っています。もちろん、こうした用法は「べし」にはありません。

  b1「けむ」
   ①過去推量[~ただろう]
   〈例〉さしもあらざりけむ 〈訳〉そんなことはなかっただろう
   ②過去の原因推量[~たのだろう]
   〈例〉いかなる故(ゆゑ)か侍りけん  〈訳〉どのような理由がございましたのでしょう
   ③過去の婉曲・伝聞[~たような、~たとかいう]
   〈例〉関吹き越ゆると言ひけむ浦風 〈訳〉関を越えて吹くといったとかいう浦風

  b2「らむ」
   ①現在推量[~ているだろう]
   〈例〉いかに罪や得らむ 〈訳〉どんなに罪を得ているだろう
   ②現在の原因推量[~ているのだろう]
   〈例〉むべ山風(やまかぜ)を嵐(あらし)といふらむ 〈訳〉それで山風を嵐と言っているのだろう
   ③婉曲・伝聞[~ような、~とかいう]
   〈例〉蓬莱といふらむ山 〈訳〉蓬莱というような

 b1「けむ」は、過去の助動詞「き」に推量の助動詞「む」が融合してできた助動詞なので「過去推量」となります。①「過去推量」と②「過去の原因推量」は区別のつきにくい事例もありますが、理由を述べる語句・または疑問詞が前にある場合、「原因推量」と考えるといいでしょう。また、体言が下接した時には、「む」と同じく婉曲用法となりますが、「人から伝え聞いた」というニュアンスになります。
 b2「らむ」は、ラ変動詞「あり」に推量の助動詞「む」が融合し、頭母音「あ」が脱落してできた助動詞で、「現在推量」です。これも①「現在推量」と②「現在の原因推量」が見分けにくいのですが、同じく理由を述べる語句・または疑問詞が前にある場合、「原因推量」と考えてください。「らむ」にも婉曲用法がありますが、やはり「人から伝え聞いた」というニュアンスが出てきます。
 「けむ」「らむ」については、まずは「過去推量」「現在推量」と判断できる事が大切です。それ以外のところは、実際の古文に当たりつつ、習得していけばいいでしょう。

※「む」「けむ」「らむ」は、「む」の兄弟といってもいい助動詞群ですが、注意しておかなければならないのは、すべて、接続する活用形が違う、という点です。
 「む」-未然形接続 「けむ」-連用形接続 「らむ」-終止形接続
こうなる理由ですが、「む」は単なる「想起」なので「動作は未実現」ですから未然形に接続します。「けむ」は「過去」すなわち既実現の「想起」なので連用形接続、「らむ」は「現在進行」への「想起」なので終止形接続になるのです。やはり各活用形の性格に応じた接続になっているようです。


 B「べし」「まじ」「なり」「めり」「らし」「まし」

  c1「べし」
   ①意志[(きっと)~しよう]  【主語=一人称】
   〈例〉この一矢にて定むべし 〈訳〉この一矢で決めよう
   ②適当[~のがよい]   【主語=二人称】
   〈例〉人にまさらんと思ふべし 〈訳〉人に優ろうと思うのがよい
   ③命令[~せよ]   【主語=二人称】
   〈例〉皆かくのごとく参るべし 〈訳〉皆、このように参れ
   ④推量[~にちがいない]  【主語=三人称】
   〈例〉この子の後見なるべし 〈訳〉この子の後見人であるにちがいない
   ⑤当然[~はずだ、~べきだ]  【主語=三人称】
   〈例〉今日は事忌みすべき日 〈訳〉今日は忌み慎むべき
   ⑥可能[~できる]
   〈例〉頭さし出づべくもあらず 〈訳〉頭をさしだすこともでき

  c2「まじ」
   ①打消意志[~まい、~ないつもりだ]  【主語=一人称】
   〈例〉ただ今は見るまじ 〈訳〉今すぐは見るまい
   ②禁止[~てはいけない]   【主語=二人称】
   〈例〉人にも漏らさせたまふまじ 〈訳〉誰にもお漏らしになってはいけません
   ③打消推量[~まい、~ないだろう]  【主語=三人称】
   〈例〉その人ならば苦しかるまじ 〈訳〉その人なら不都合ではあるまい
   ④打消当然[~べきでない]   【主語=三人称】
   〈例〉あふまじき人 〈訳〉会うべきでない
   ⑤不可能[~できない]
   〈例〉内裏にのがるまじかりけり 〈訳〉宮中に避けられない事情があったなあ

 「べし」は、現代語でも「べきだ」という形で残っているので、感覚的には捉えやすいと思います。推量の助動詞「む」が「想起」であるのに対して、推量の助動詞「べし」は「確信」、つまり「それは当然だ」という判断を加える助動詞です。「む」を強めたのが「べし」だ、という説明も見かけますが、それは「想起」と「確信」の違いといっていいでしょう。
 ところで、古典文法で「べし」を扱うとなると、難易度が上がるようです。それはなぜでしょうか。
 まず「べし」は助動詞の中でもっとも多くの意味を持ちます。ここでは六つのカテゴリーに整理しましたが、さらに細かく分類することもあります。また、文中の「べし」が、多数の意味の中から一つに限定できないことも多いので、なかなかやっかいなのです。例えば、例文「人にまさらんと思ふべし」などは、「人に優ろうと思うのがよい」(適当)でとっていますが、「人に優ろうと思え」(命令)や「人に優ろうと思うべきである」(当然)ともとることができます。
 こういうことから、「べし」は混乱を招きやすい助動詞なのですが、ならばこそ、この助動詞は次のように整理しておくことをお勧めします。
 まず、「べし」の中心的機能は「確信」つまり「それは当然だ」という判断を加えることにありますから、六つの意味の中で中心になるのは⑤「当然」です。これと人称を関係させると、次のように考える事ができます。

 一人称 「わたしが~するのは当然だ」→「意志」(きっと~しよう)
 二人称 「あなたが~するのは当然だ」→「適当」(~のがよい)【弱】
                   →「命令」(~せよ)【強】
 三人称 「それが~するのは当然だ」 →「推量」(~にちがいない)【弱】
                   →「当然」(~はずだ、~べきだ)【強】
 「当然~する」=「~の能力がある」 →「可能」(~できる)

 このように考えておくと、六つの意味が整理できるのではないでしょうか。ただし、これは原則であり、主語が一人称でも「推量」や「当然」でとる場合もありますし、先に書いたとおり、意味を一つに限定できない場合もあります。要は、「当然」(~はずだ、~べきだ)を中心に考え、文脈によって妥当な意味を選択していく、というスタンスでいいと思います。なお、「可能」は、「る」「らる」と同じく、否定文で頻出します。
 さて、「べし」はもっとも意味が多岐にわたる助動詞ですが、六つの意味が覚えにくいという声も耳にします。そんな場合は、「す・い・か・と・め・て」と覚えておくのも手です。坂を転がっていくスイカを「止めて~」と叫んでいるイメージですが、これは六つの意味の頭文字になっています。「推量・意志・可能・当然・命令・適当」、完全な語呂合わせです。

 c2「まじ」は「べし」の打消です。「べし」にある六つの意味のうち、二人称主語に対応する「適当」と「当然」がまとめられて「禁止」になっているため、意味は五つです。「べし」の意味を押さえておけば、その打消ですから、基本的には新たに覚え直すまでもないでしょう。ただ、訳出の仕方は見ておいてください。

  d1「めり」
   ①推定[~ようだ]
   〈例〉え行くまじかめり、この雨よ 〈訳〉行く事はできないようだ、この雨で
   ②婉曲[~ようだ]
   〈例〉今年の秋も往ぬめり 〈訳〉今年の秋も去りゆくようだ

  d2「なり」
   ①推定[~ようだ]
   〈例〉人まつ虫の声すなり 〈訳〉人を待つ、松虫の声がするようだ
   ②伝聞[~そうだ]
   〈例〉世(よ)をうぢ山と人はいふなり 〈訳〉世を厭う、宇治山と人は言うそうだ

 d1「めり」は、「見」と「あり」が融合してできた助動詞です。したがって、視覚的根拠に基づく「推定」を表します。例で言うと、「雨」を根拠に「行けないようだ」と推定するのです。ちなみにこの「推定」は、文法書によっては「推量」とするものもあります。「婉曲」は、「推定」から派生して丁寧な表現を表すようになったもので、こちらでは根拠は示されません。

 d2「なり」は「音(ね)」と「あり」が融合してできた助動詞で、聴覚的根拠に基づく「推定」を表します。例で言うと「声」から「松虫」を「推定」しています。この音を根拠とした「推定」から、「人から伝え聞いた」という意味の「伝聞」が派生します。
 なお、助動詞「なり」には、「断定」と「伝聞推定」の二種類がありますが、「断定」は体言及び連体形接続、「伝聞推定」は終止形接続(ラ変は連体形接続)という違いから見分けていきます。ただし、四段活用は終止形と連体形が同じであり、また、ラ変ではどちらも連体形に接続するため、文脈から判断することになります。また、「なるなり」「なんなり」「ななり」と、「なり」が重複して出てくることがありますが、この場合は、上が「断定」、下が「伝聞推定」です。「なるめり」「なんめり」「なめり」という言い方があることを知っていれば、「めり」と同じポジションが「伝聞推定」だ、と判断する事ができます。
 上記「めり」「なり」は、それぞれ視覚的根拠、聴覚的根拠に基づく「推定」なので、やはりよく似た兄弟という感じです。併せて押さえておきましょう。

  e1「らし」
   ①推定[~らしい]
   〈例〉春過ぎて夏来たるらし 〈訳〉春が過ぎて夏が来たらしい

  e2「まし」
   ①反実仮想[ (~せば‥まし、~ましかば~まし、~ば‥ましの形で)
         もしも~なら‥なのになあ]
   〈例〉家に在らば母とり見まし 〈訳〉家にいたなら母が看病してくれるのに
   ②ためらい[ (疑問文で) ~しようかしら]
   〈例〉しやせまし、せずやあらまし 〈訳〉しようかしら、しないでいようかしら

 e1「らし」とe2「まし」は、残りもの二つでペアにしています。本来は別々に押さえる助動詞ですが、こうしておいた方が覚えやすいでしょう。
 「らし」は、現代語の「らしい」とまったく同じですが、この助動詞の特徴は「明確な根拠がある」ということです。例でいうと、この下の句は「白妙の衣ほしたり天の香具山」となりますが、「天の香具山に真っ白な衣を干している」から「夏が来たらしい」となるわけです。このように推定「らし」には根拠が示される、ということを覚えておいてください。

 e2「まし」は、①「反実仮想」を形成する助動詞としてとても重要です。これは「~せば、~ましかば、~ば」の箇所で事実に反することを想定し(「もしも~ならば」)、それに対して「‥まし」の箇所で非実現の空想をする(「‥なのになあ」)という構造をいいます。つまり、英語でいうと「仮定法過去」ですね。
 この反実仮想の前半部が脱落して「‥まし」単独で用いられることもありますが、「‥ならいいのに」と訳せばいいでしょう。
 ②は、「非実現の空想+疑問」という構造から「ためらい」を表し、「~かしら」と訳します。一応、知識として持っておきましょう。

 さて、Bグループの助動詞ですが、「べし」「まじ」「めり」「なり」「らし」は、すべて事実に対する「判断」を示す助動詞です。そのため、この五つは終止形に接続します。
 ただ、「まし」は「反実仮想」つまり非実現ですから、未然形に接続するのです。

 以上、ここまでが「推量の助動詞」といわれるものです。まず一〇個あることを押さえ、次にA、Bグループに分け、そして二つずつペアにして押さえていくと、随分理解しやすいのではないでしょうか。ここが押さえられれば助動詞はあと一息です。
 では、少し練習してみましょう。

練習1 次の傍線部の助動詞の意味を記せ。
 ①山ほととぎすいつか来鳴か    (        )
 ②心あら友もがな。        (        )
 ③子となりたまふべき人なめり。   (        )
 ④龍に乗らずは、渡るべからず。   (        )
 ⑤われは行か。          (        )
 ⑥子泣くらむ。           (        )
 ⑦いかにわびしきここちしけむ。   (        )
 ⑧男もすなる日記といふものを    (        )
 ⑨泣くめれど、涙落つとも見えず。  (        )
 ⑩み吉野の山の白雪積もるらし    (        )

練習2 次の古文を現代語訳せよ。
 ①(その骨は)扇のにはあらで、海月のななり。
  (                                )
 ②鏡に色形あらましかば映らざらまし。
  (                                )

 今回はここまでです。前回の復習問題の解答と補強問題を掲載しておきますので、練習してみてください。

 頑張ろう、東高!

練習1・解答
 ①山ほととぎすいつか来鳴か    ( 推量     )
 ②心あら友もがな。        ( 婉曲     )
 ③子となりたまふべき人なめり。   ( 当然     )
 ④龍に乗らずは、渡るべからず。   ( 可能     )
 ⑤われは行か。          ( 打消意志   )
 ⑥子泣くらむ。           ( 現在推量   )
 ⑦いかにわびしきここちしけむ。   ( 過去推量   )
 ⑧男もすなる日記といふものを    ( 伝聞     )
 ⑨泣くめれど、涙落つとも見えず。  ( 推定     )
 ⑩み吉野の山の白雪積もるらし    ( 推定     )

練習2・解答
 ①(その骨は)扇のにはあらで、海月のななり。
  ( (その骨は、)扇の(骨)ではなくて、海月の(骨)であるようだ   )
 ②鏡に色形あらましかば映らざらまし。
  ( もしも鏡に色や形があったならば、映らないだろうに         )

解説
 問一②④は、正確には「存続(~ている、てある)」です。選択肢などで「存続」がない場合は「完了の助動詞」と考えてください。⑧の活用形は已然形。已然形には「ば」「ど・ども」しか接続しません。後は「こそ」の結びですね。⑨は直前が「立て(tate)」となっていることから完了の「り」と判断します。ちなみに接続助詞「で」は「~ないで」と訳し、未然形接続です。⑩は「にけり」の形に着目し、「完了」の「ぬ」と判断します。この問題は、特に⑨、⑩をしっかり押さえてください。
 問二①「けり」=連用形接続。③は形容詞ク活用です。「カリ活用」の方ですね。⑤は「起き・ず」となるので上一段、「たり」は連用形接続。⑥は動詞です(=become)。助動詞と勘違いしないように。「らむ」は終止形接続です。⑦「いひ入れ・ず」となり下二段活用、「む」は未然形接続でした。


補強問題3A(助動詞の接続)

1 次の傍線部の語の活用形をそれぞれ記せ。

 ①若かりけるとき、        (     )

 ②さやうの人の祭りしさま、        (     )

 ③潮満ちぬ。                           (     )

 ④送りにつる人々、                  (     )

 ⑤これに過ぎたる水練、               (     )

 ⑥一夜の夢の心地こそめ。          (     )

 ⑦今もかも咲き匂ふらむ、             (     )

 ⑧帰りてまたけむかも。             (     )

 ⑨この一矢にて定むべしと思へ。     (     )

 ⑩かぐや姫を迎へにまうでなり。    (     )


補強問題3B(助動詞の活用)

1 次の(  )内の助動詞を適当な形に改めよ。

 ①このわたりに見知れ(り)僧なり。  (     )

 ②行かずなり(ぬ)けり。               (     )

 ③雪とのみこそ花は散る(らむ)。      (     )←已然形に

 ④その難をのがる(べし)ず。          (     )

 ⑤乗りたまふ(まじ)御さまなれば、  (     )

 ⑥龍を捕らへたら(まし)ば、          (     )

 ⑦生年十七にぞなら(る)ける。       (     )

 ⑧何にかなら(す)たまひたる。       (     )

 ⑨あり(たし)事は、                    (     )

 ⑩行か(まほし)思ふに、               (     )

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古典文法講座第七回

古典文法講座 第七回

 今回から、「助動詞の意味」を扱っていきます。
 以前にも記しましたが、助動詞は主として用言に意味を付加する働きをします。どのような意味を付加するかで助動詞をグループ化すると、次のようになります。

1 受身 「る」「らる」
2 使役 「す」「さす」「しむ」
3 過去 「き」「けり」
4 完了 「つ」「ぬ」「たり」「り」
5 推量 「む」「じ」「けむ」「らむ」「べし」「まじ」「なり」「めり」「らし」「まし」
6 願望 「まほし」「たし」
7 断定 「なり」「たり」
8 比況 「ごとし」
9 打消 「ず」

 助動詞は複数の意味を持つものが多いのですが、まずは、上記の九種類の「意味」の系統を押さえてください。次にそこに所属する助動詞を覚えます。その上で、各グループごとに理解していきます。また、共通する要素のある助動詞は、ペアにして押さえていくと効率的です。

1 受身 「る」「らる」
 ①受身[~れる、~られる]
   〈例〉姑に思はるる嫁の君 〈訳〉姑に大切にされる
 ②尊敬[~なさる、~れる、~られる]
   〈例〉大井川の水をまかせられんとて 〈訳〉大井川の水を引きなさろうとして
 ③可能[~できる、~れる、~られる]
   〈例〉つゆまどろまず 〈訳〉すこしもまどろむことができない
 ④自発[(自然と)~される]
   〈例〉風の音にぞ驚かぬる 〈訳〉風の音ではっと気づかされたことよ

 「る」「らる」は、現代語の「れる」「られる」とほぼ同じと考えていいでしょう。
 四つの意味の識別は、基本的には文脈から考えますが、ちょっとしたコツがあります。③「可能」は、その多くが打消を伴って不可能(~できない)の形で出てきます。また④「自発」は心情を表す動作(思ふ、泣く、驚く、など)で多く現れます。これ以外は、主語が動作の主体となっている文なら②「尊敬」、主語が動作の客体(何かされる側)であれば①「受身」、ということを基準に見分けるといいでしょう。

2 使役 「す」「さす」「しむ」
 ①使役[~せる、~させる]
   〈例〉寝殿に鳶ゐさせじ 〈訳〉寝殿に鳶をとまらまい
 ②尊敬[(せ給ふ、させ給ふ、しめ給ふ、の形で)~なさる、お~なる]
   〈例〉悲しま給ひて 〈訳〉悲しみになっ

 「す」「さす」も現代語の「せる」「させる」とほぼ同じ、「しむ」は漢文で習う「使」と同じと考えていいでしょう。
 ①の「使役」は、特に問題はないでしょう。②の「尊敬」は、「せ給ふ」「させ給ふ」「しめ給ふ」など、基本的に「給ふ」とともに用いられる、と考えてください。そしてこの形は「最高敬語」を表します。皇族など、きわめて身分の高い人に敬意を表す形です。「す」「さす」「しむ」が単独で「尊敬」を表すことはありません。
 参考までに、「のたまふ(おっしゃる)」という尊敬語に「す」が付いて、「のたまはす」という最高敬語が生じますが、これは一語(動詞)扱いです。

【古典文法の蘊蓄】
 受身「る」「らる」、使役「す」「さす」「しむ」は、他の助動詞とは違い、とても強力な機能を持っています。それは、①動詞に必ず直結する、②未然形~命令形のすべてを持つ、③動詞の主語が変更される、ということです。①と②から、まるで動詞と一体となっているように見えますし、そして③は他の助動詞では見られない現象です。例えば、
  竹取、泣き伏す
という文に他の助動詞を加えても、意味が加わるだけなので、主語は変化しません。
 〈例〉竹取、泣き伏さむ  竹取、泣き伏しけり  竹取、泣き伏すべし
しかし、「る」「らる」「す」「さす」「しむ」では、
  嫗、姫を養ふ→「養ふ+る」→×嫗、姫を養はる ○姫、嫗に養はる
  嫗、姫を養ふ→「養ふ+す」→×嫗、姫を養はす ○翁、嫗に姫を養はす
というように、意味を添えるのではなく、文の構造を変えてしまうため、主語が変わってしまうのです。そういう意味では、これらの助動詞は、とても動詞に近い、と考えられるかもしれません。考えてみれば、英語の受動態や使役形も「be動詞」や「have」などを使います。言語を越えて、共通のものがあるのかもしれません。

練習1 次の傍線部の助動詞の終止形を記し、次に意味を記せ。
 ①問ひつめられて、           (      ・      )
 ②つゆまどろまず。          (      ・      )
 ④口惜しと嘆かたまふ。        (      ・      )
 ③よろこびながら加持せさするに、    (      ・      )

3 過去 「き」「けり」
 a「き」
  ①過去(経験過去)[~た]
   〈例〉にはかに都遷(うつ)り侍(はべ)り 〈訳〉急に都が遷りまし

 b「けり」
  ①過去(伝聞過去)[~た、~たそうだ]
   〈例〉あやまりにてなほされけり 〈訳〉間違ったということでお直しになっ
  ②詠嘆[~だなぁ]
   〈例〉憂きに耐へぬは涙なりけり 〈訳〉辛さに耐えられないのは涙なのだなぁ

 a「き」は自分で経験した過去を表します。また、過去の確実な事実にも使われます。
 「き」は、「せ・○・き・し・しか・○」と、特殊な活用をするので注意が必要です。未然形は「~せば…まし」の反実仮想(英語で言うところの「仮定法過去」、後に詳述)の形でのみ出現、連体形「し」、已然形「しか」には気をつけておきましょう。例を挙げておきます。
 〈例〉憂しと見世ぞ今は恋しき 〈訳〉辛いと思っ世の中が今は恋しい
 〈例〉ゆかしかりしかど 〈訳〉知りたかっけれど

 b「けり」は「来(き)・あり」が融合して生まれた助動詞で、何らかの思いやシーンが「やって来ている」ということを表します。従って、聞いた話を思い出したり(①「伝聞過去」)、はっと何かに気づいたり(②「詠嘆」)したときに使われます。ちなみに、「この本は千円だっけ?」の「け」は、現代語に残った「けり」です。
 「けり」は、地の文では①「過去」の用法が多く、和歌・会話文・心中思惟(心の中で思うこと)では②「詠嘆」が多くなります。

4 完了 「つ」「ぬ」「たり」「り」
 a「つ」「ぬ」
  ①完了[~てしまう、~た]
   〈例〉雀の子を犬(いぬ)君(き)が逃がしつる 〈訳〉雀の子を犬君が逃がしてしまった
   〈例〉八十島かけてこぎ出で 〈訳〉多くの島々を目指して船出し

※完了「つ」「ぬ」+過去「き」「けり」の形である「てき」「てけり」「にき」「にけり」は頻出するので注意。訳は「~てしまった、~た」。
   〈例〉泣く泣く帰りけり 〈訳〉泣く泣く帰ってしまった
   〈例〉誓(ちか)ひし人の命の惜(を)しくもあるかな 〈訳〉誓っ人の命が惜しいことよ

  ②強意[ (てむ、なむ、つべし、ぬべし、の形で) きっと~]
   〈例〉盗みもしつべきことなり 〈訳〉盗みもきっとするにちがいないことである
   〈例〉あひ見るほどありなむ 〈訳〉再会する時がきっとあるだろう

 ①完了ですが、「つ」と「ぬ」は、実は微妙にニュアンスが異なります。それはこれらの助動詞の出自の違いに寄ります。
 これは以前にも記しましたが、「つ」は「棄(う)つ」(捨てる、の意)という下二段動詞の頭母音「う」が脱落して生じた助動詞です。例えば「追ひうつ→追ひつ」というようなイメージです。なので、助動詞「つ」は、「人が何かを捨ててしまう」→「人がある動作を終わらせてしまう」というニュアンスを持ちます。一方で、「ぬ」は「往(い)ぬ」(行ってしまう、いなくなる、の意)というナ変動詞の頭母音「い」が脱落してできた助動詞です。例えば「走りいぬ→走りぬ」というようなイメージです。そのため、助動詞「ぬ」は、「何かがいなくなってしまう→自然とある動作が終わってしまう」というニュアンスになります。
 これを要約すると、助動詞「つ」は、人が動作を意図的に終了する「人為完了」、助動詞「ぬ」は、自然に動作が完了する「自然完了」ということになります。これを英語で例示するなら、
 He has finished his homwork. → has = つ
 Spring has come.          → has = ぬ
ということになるでしょう。実際、古文ではそのような使われ方がされていますから、確認してみてください。
 なお、「完了」の口語訳ですが、基本的に「~た」と口語訳する方が多くなります。「完了」を強く打ち出したいときに「~てしまう、~てしまった」と訳出します。
 実は、現代語の助動詞「た」ですが、これは「過去」だけを表す助動詞ではありません。「完了」「存続」も表します。これは蘊蓄レベルの話なので、今回の最後に記します。

 ②の「強意」は、原則として「推量」の助動詞「む」「べし」が後接したとき、それを強調する働きを指します。口語訳として「きっと~」としておきましたが、口語訳が難しい場合もあり、また、「~てしまうだろう」「~てしまうにちがいない」と口語訳することもかなりあります。「強意」だということがわかっていれば問題はありません。要は、「動詞+つ・ぬ+む・べし」の構成の句が、「動作は・完結する(きっとそうなる)・と推量される」というように理解できていれば、それで十分です。

 b「たり」「り」
  ①存続[~ている、~ていた]
   〈例〉女は思ひたれば 〈訳〉女は思っていたので
   〈例〉八重(やへ)むぐらしげれ宿(やど) 〈訳〉ひどく雑草が茂っている

  ②完了[~た]
   〈例〉京にて生まれたりし女(をむな)子(ご) 〈訳〉京で生まれ女の子
   〈例〉よろづの言の葉とぞなれける 〈訳〉あらゆる言葉となっのだよ

 bの「たり」と「り」ですが、「り」の方が先に生まれました。以前にも説明したとおり、四段活用連用形+ラ変動詞「あり」、サ変動詞連用形+ラ変動詞「あり」から生まれのが助動詞「り」で、こういう経緯から、「り」が接続するのは四段とラ変の「e」音だと理解しておくと見分けやすいでしょう(咲け・り=sak・ri、せ・り=s・ri)。
 助動詞「り」は、四段とラ変にしか接続しないため、少々使い勝手が悪かったようです(とはいっても、中古分ではかなりの数、見かけますが)。そこで生まれたのが「たり」です。これは接続助詞「て」にラ変動詞「あり」が融合してできました(te・ari→tari)。「たり」はすべての動詞に接続しますから、古文では頻出します。
 さて、意味ですが、「完了の助動詞」とされる「り」も「たり」も、意味は基本的に「存続」でとります。「~ている(た)、~てある(た)」と訳しますが、この訳が文意としてしっくりこないときに、②「完了」でとり、「~た」と訳してください(例文を参照)。
 ただし、「り」「たり」とも、「完了の助動詞」という概念で括られているので、入試問題などで意味を問うとき、選択肢に「存続」がなく、「完了」だけがある、ということもよくあります。これは「存続(~ている)も完了(~た)も、ひっくるめて、『完了』」という考え方だと理解して対応してください。
 最後に、「り」は一文字助動詞の上、「ら・り・り・る・れ・れ」と、未然形~命令形のすべての活用形が存在します。なので文中での見分けに苦労するかもしれませんが、用は「四段・サ変のe+ら・り・る・れ」が完了の助動詞「り」です。この原点を押さえておけば、十分に入試にも対応できます。

練習2 次の傍線部の助動詞の終止形を記し、次に意味を記せ。
 ①そのこと果てば、とく帰るべし。   (      ・      )
 ②大井川に流しけり。         (      ・      )
 ③死に子、顔よかりき。        (      ・      )
 ④昔、男ありけり。           (      ・      )
 ⑤いたう忍びたまへど、        (      ・      )


練習1・解答
 ①問ひつめられて、           ( らる   ・ 受身   )
 ②つゆまどろまず。          ( る    ・ 可能   )
 ④口惜しと嘆かたまふ。        ( す    ・ 尊敬   )
 ③よろこびながら加持せさするに、    ( さす   ・ 使役   )

練習2・解答
 ①そのこと果てば、とく帰るべし。   ( ぬ    ・ 完了   )
 ②大井川に流しけり。         ( つ    ・ 強意   )
 ③死に子、顔よかりき。        ( き    ・ 過去   )
 ④昔、男ありけり。           ( けり   ・ 過去   )
 ⑤いたう忍びたまへど、        ( り    ・ 存続   )


 今回はここまでにします。以下に、前回と今回の範囲の復習問題を掲載しておきますので、やってみてください。また、前回出題した補強問題の解答も掲載しておきます。参照してください。

 

頑張ろう、東高!


復習問題3 次の本文を読んで、以下の問いに答えよ。

 また、男、しのびてしれる人①ありけり。人しげきところなれば、夜も明けぬ先に、人の静まれ②をりにとて、帰りいでたるに、まだ暗きほどなれば、いかで帰らむと思へど、いと③かたかりければ、門の前に渡し④たる橋の上に立ちて、いひ入る。
  夜半にいでて渡りぞかぬる涙川淵とながれて深く見ゆれば
と、いひ入れたれば、女も寝でぞ⑤起きたりける。返し、
  さ夜中におくれてわぶる涙こそ君がわたりの淵と⑥なるらめ
男、いとあはれと思ひて、またもの⑦いひ入れむと思へど、大路に人などあり⑧ければ、立て⑨で、帰り⑩けり。

[話の概要]
 ある男がこっそり通っている女がいた。人に見られないよう、夜明け前に帰ろうと女の家を出るとまだ真っ暗で、帰るに帰れず、橋の上にたたずんで、女に歌を贈った。
  夜中にあなたの家を出たものの、渡りかねております、別離の涙の川が淵かと思われ るように流れて、とても深く見えますので
と、読んだところ、女も起きていて、その返歌、
  真夜中にあなたに去られて嘆く私の涙が、あなたが渡ろうとしている場所で淵となっ ているのでしょう
男は感動して、また歌をやろうと思ったが、大路に人の姿が見えたので、ぐずぐすしていないで、帰ったのだった。

問一 傍線部②、④、⑧、⑨、⑩の助動詞の終止形・活用形・意味を記せ。

問二 傍線部①、③、⑤、⑥、⑦の用言の、活用の種類と活用形を記せ。

補強問題2A(用言の判断) 解答

1 傍線部の語を文法的に説明せよ。

 ①本意のごとく会ひにけり。 ( 動詞・ハ行四段・連用形      )

 ②行く川の流れは絶えずして、 ( 動詞・ヤ行下二段・未然形     )

 ③母の命尽きたるを知らずして、 ( 動詞・カ行上二段・連用形     )

 ④ある人、弓射ることを習ふに、 ( 動詞・ヤ行上一段・連体形     )

 ⑤ひがごとん人をぞ、 ( 動詞・サ変・未然形        )

 ⑥死ぬることのみ、機嫌をはからず。( 動詞・ナ変・連体形        )

 ⑦とんで火に入る夏の虫。 ( 動詞・バ行四段・連用形・撥音便  )

 ⑧いと心にくからめ。 ( 形容詞・ク活用・未然形      )

 ⑨漫々たる海上なれば、     ( 形容動詞・タリ活用・連体形    )

 ⑩同じう死なば、 ( 形容詞・シク活用・連用形・ウ音便 )


補強問題2B(用言の活用) 解答

1 次の( )内の動詞を適当な形に改めよ。

 ① 心なしと(見ゆ)者にも、 ( 見ゆる          )

 ② (悔ゆ)ても遅ければ、 ( 悔い           )

 ③ 猛き者もつひには(滅ぶ)ぬ。 ( 滅び           )

 ④ 沖より(寄す)白波にも、 ( 寄する          )

 ⑤ 尊くこそ(おはす)けれ。 ( おはし          )

 ⑥ 先達は(あり)まほしきことなり。 ( あら           )

 ⑦ 聞きしにも(過ぐ)て、 ( 過ぎ           )

 ⑧ 山までは(見る)ず。 ( 見            )

 ⑨ うるはしき花こそ、(めでたし)。  ( めでたけれ        )

 ⑩ (ならびなし)べきことなり。 ( ならびなかる       )

 

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古典文法講座第六回

古典文法講座 第六回

 今回から「助動詞」に入ります。ここが古典文法学習のひとつの山になります。
 助動詞は、主として活用語に接続し、意味を付加する付属語です(ただし、断定の助動詞「なり」「たり」は体言に接続します)。
 助動詞を学習するに当たっては、それぞれ、「接続」「活用パターン」「意味」を覚えることになるのですが、一つ一つ覚えていくのではとても大変です。そこで、次の手順で学習していきます。

 ①助動詞の接続を覚える
 ②助動詞の活用パターンを覚える
 ③助動詞の意味を覚える
 ④間違いやすいパターンを押さえる

 この上記①~③について、助動詞をグループ化して覚え、最後に④を確認して実践力を付けていきます。

 では最初に、「助動詞の接続」から見ていきましょう。
 助動詞はすべて、接続する活用形が決まっています。そしてほとんどの助動詞が、未然形、連用形、終止形のどれかに接続します(例外は後述)。以前に記した、各活用形の性格と、接続する助動詞一覧をまとめておきましょう。

1 助動詞の接続
 A 未然形‥動作の未完・未実現を表す
    接続する助動詞-る、らる、す、さす、しむ、む、じ、ず、まし、まほし

 B 連用形‥動作の既実現を表す
    接続する助動詞-き、けり、つ、ぬ、たり(完了)、けむ、たし

 C 終止形‥動作そのものを表す
    接続する助動詞-べし、まじ、らむ、らし、めり、なり(推定・伝聞)
    ※ラ変・ラ変型活用では、「連体形」に接続するので要注意!

 D 連体形‥助動詞が接続する場合、体言相当と考えられる
    接続する助動詞-ごとし、なり(断定)
    ※なり(断定)は体言にも接続、たり(断定)は体言にだけ接続

 E 特殊‥助動詞「り」はサ変=未然形接続、四段=已然形接続と考える
      (「サ未(ミ)四(シ)已(イ)」と覚えるとよい)

 以上です。当面、これだけしっかりと覚えておきましょう。
 なお、念のため、これについて説明をしておきますが、覚えるのは上記の一覧で十分でしょう。まずはDとEから補足しておきます。
 Dについて。
 「ごとし」は、「名詞+の+ごとし」「動詞・連体形+が+ごとし」の形が原則です。この「動詞・連体形+が+ごとし」の「が」が省略されることがあり、その場合、連体形接続となるのです。また、断定の助動詞「なり」は、格助詞「に」とラ変動詞「あり」が融合して生まれた助動詞なので(ni・ari→nari)、格助詞は名詞に付きますから、その性格を引き継いで、体言と体言相当である動詞の連体形に接続します。断定の助動詞「たり」も、格助詞「と」とラ変動詞「あり」が融合して生まれた助動詞で(to・ari→tari)体言に接続しますが、動詞には接続しません。

 Eについて。
 「り」は、接続の判定が困難な助動詞です。というのも、この助動詞は四段活用とサ変の連用形に、ラ変動詞「あり」が接続して生まれた助動詞だからです。例を見てみましょう。
  咲き・あり(saki・ari)→[i+a⇒e]→咲けり(sakeri)
  し・あり (si・ari)  →[i+a⇒e]→せり (seri) 
 この例で言うと「咲け」「せ」が動詞と判断されるので、残った「り」が助動詞となったわけですが、これは音韻変化で生まれた助動詞なので、そもそも何形接続と判断できないのです。なので便宜上、「サ変・未然、四段・已然」としています。こういう助動詞は「り」だけなので、ひとりぼっちで「サ未四已(さみしい)」、と覚えるのが古典的です。ただ、これより重要なのは、エ段に接続している「ら・り・る・れ」は完了の助動詞「り」だ、と見抜くことでしょう。

 さてA、B、Cについても補足しておきます。
 Aについて。
 未然形は未完・未実現を表します。
 未完であることから、動詞自体を補完する助動詞、受身の「る」「らる」、使役の「す」「さす」「しむ」が接続します。
 ちなみにこの「る」「らる」「す」「さす」「しむ」は、動詞にしか接続しません。つまり、直接に動詞を補う働きを持っているのです。なお、「る」「す」は四段・ナ変・サ変に接続し、「らる」「さす」は上一・下一・上二・下二・カ変・サ変に接続します。未然形の音を見てみると、なんとなくその理由がわかると思います。なお、「しむ」はすべての動詞に接続しますが、これは漢語由来(使)だからでしょう。
 また、未然形は未実現を表すことから、まだ実現されていないことを表す「む」(推量)、「じ」打消推量、「ず」(打消)、「まし」(反実仮想)、「まほし」(願望)が接続します。

 Bについて。
 連用形は動作の既実現(すでに実現している)を表しますから、過去「き」「けり」、完了「つ」「ぬ」「たり」、過去推量「けむ」といった助動詞が接続します。ただ、完了の「り」についてはEの解説で述べたとおりです。
 毛色の違うのが「たし」(願望)です。願望なのだから動作は実現していないのでは?というのは当然の疑問でしょう。実は、この語は、形容詞「いたし」が語源で、「~いたし(~がはなはだしい)」と言っていたものが、「~たし(~たい)」の形・意味になって生まれた助動詞なのです。ちなみに「たし」が用いられるのはだいたい鎌倉時代以降、新参者なので少し毛色が違っているのです。

 Cについて。
 終止形は、文末言い切りでも用いるので現在形と思われがちですが、むしろ時制を超越して動作・存在そのものを表現する、と考えられます。それゆえ、判断を付加する助動詞が接続します。「べし」(当然)、「まじ」(打消当然)、「らし」「なり」「めり」(推定)などです。また、逆説的ですが、現在も表すことができることから「らむ」(現在推量)も終止形に接続します。
 なお、特に注意しておきたいのは、これらの助動詞はすべて、ラ変動詞やラ変型活用には、連体形「-る」に接続するということです。ラ変型活用形の出現頻度はかなり高いので、しっかり覚えておいてください。
 
 さて、最後に何点か補足しておきます。
 「むず」という助動詞がありますが、これは「むとす」が縮まった形です。なので接続は「む」と同じ未然形、ただし活用パターンはサ変です。
 中世(院政期以降を想定しています)に、文字表記「ん」が発生してのちは、「ん」「んず」「けん」「らん」という表記が出現しますが、これらは「む」「むず」「けむ」「らむ」とまったく同じです。
 最後に、これはたまにしか見ないと思いますが、上代には「ゆ」「らゆ」という助動詞がありました。これらは「る」「らる」と同じだと考えてください。

 では、次の練習問題をやってみてください。

練習1 次の傍線部の語の活用形を記せ。
 ①花咲くべし。  (        )
 ②花咲くごとし。 (        )
 ③滝落ちけむ。  (        )
 ④滝落ちむ。   (        )

練習2 次の[ ]内の語を適当な形に改めよ。
 ①風[吹く]じ。   (      )
 ②人[尋(たづ)ぬ]けり。  (      )
 ③思ひ出に[す]む。 (      )
 ④花[美し]べし。  (      )

 次に、「助動詞の活用パターン」に入ります。
 助動詞の活用パターンは、いくつかの特殊型を除き、大多数が用言の活用パターンと同じです。それらは新たに覚え直す必要はないでしょう。文法のテキストに掲載されている活用表を見ると、出現しない活用形の所は「○」になっているとおもいますが、文中に出てこないだけなのだから、○の位置まで覚えることはないでしょう。そう割り切った方が楽に進めます。
 以下に、活用のパターンを分類します。

2 助動詞の活用パターン
 A 下二段型…る、らる、す、さす、しむ、つ
 B ナ変型 …ぬ
 C ラ変型 …なり(推定)、めり、けり、たり(完了)、り
 D 形容詞型…べし、まじ、まほし、たし、ごとし
 E 形容動詞型…なり(断定)、たり(断定)
 F 特殊型 …じ、らし、む、けむ、らむ、き、まし、ず

 上記のように分類して把握し、A~Eは用言の知識を活用して判断し、Fだけ新たに覚える、というのが効率的です。例えば、
 「堀池の僧正とぞ言ひける」
という文の「ける」の活用形を判断する場合、「けり」の活用表を覚えておいて判断してもいいのですが、これはラ変型だから、「ら・り・り・る・れ・れ」で連体形だ、というように処理した方がスピーディーです。正確に助動詞の活用表を覚えるのも悪いことではないのですが、合理化できるところは合理化した方が、負担が少なくて済みます。

 では、このあとまず、Fの特殊型を押さえていきます。
 これも4グループに括って覚えます。

 変化しません。楽勝です。

 「四段型」とするテキストも多いのですが、むしろ「む型」として覚えた方がピンとくるでしょう。
 「けむ」(過去推量)は、過去の助動詞「き」と推量の助動詞「む」が融合したもの、「らむ」(現在推量)は、ラ変動詞「あり」と推量の助動詞「む」が融合したものなので、同じ活用パターンになります。

 親近性があるので併せて覚えます。後に説明しますが、反実仮想(もしも~なら…なのになぁ、という表現法)では、「~せば…まし」「~ましかば…まし」という形をとります。この二つの助動詞の未然形は、このパターンでのみ出現します。また、出現する活用形も共通なので、併せて覚えやすいと思います。

 主活用の未然形「ず」は「~ずは(~ないならば)」「ずとも(~ないとしても)」の形だけで出現します。
 第二活用は、連用形「ず」にラ変動詞「あり」が融合して生じたもので、主として助動詞を下接させる形ですが、已然形「ざれ」、命令形「ざれ」も一般的に使用されます。

 以上が特殊型です。これらを覚えておけば、残りの助動詞は何型に属しているかを押さえておけばいいことになります。
 ただし、ここでは念のため、それぞれのタイプの活用形を掲載しておきます。

 「る」「らる」「す」「さす」「しむ」は、接続も同じであり、のちに説明しますが、動詞の主語を変えてしまうという機能も一緒なので、一括りで押さえておきましょう。
 完了の助動詞「つ」は、実は「捨てる」という意味の「棄(う)つ」という下二段動詞の頭母音が脱落して発生しました。それで下二段型になっているわけです。ちなみにこの「棄つ」は、現代語にも「財産をなげうつ」というような形で残っています。

 完了の助動詞「ぬ」は、「行ってしまう」という意味のナ変動詞「往(い)ぬ」の頭母音が脱落して生まれた助動詞です。それでナ変型になっています。

 終止形が「り」で終わる助動詞はすべてラ変型です。それもそのはずで、これらは次のようにして発生しました。
  音(ね)+あり→なり  見(み)+あり→めり  来+あり→けり  て+あり→たり
 「り」については以前に説明したとおりです。
 このタイプの助動詞の活用表では「○」の欄がありますが、要は、「出てこない」だけなので、覚えていなくても支障はないでしょう。「ラ変型はこれらの助動詞」ということを押さえておけば事足ります。ちなみに私は、キノコに引っかけて、「なめ茸(たけ)・り」と覚えています。

 終止形が「し」で終わる助動詞は、特殊型「じ」「らし」「まし」を除いてすべて形容詞型です。「ごとし」以外は「カリ活用」があり、これには助動詞が下接します。

 断定の助動詞「なり」は、格助詞「に」とラ変動詞「あり」が融合して生じた助動詞です。一方、断定の助動詞「たり」は、格助詞「と」とラ変動詞「あり」が融合して生じた助動詞です。連用形の「に」「と」は、そのなごりで、ある特殊な形で出現しますが、これについてはのちほど説明します。
 なお、一応「形容詞型」としましたが、ラ変型の連用形に「に」「と」を加えるだけですから、この点を押さえておけば、新たに覚えるまでもないでしょう。

 さて、以上で助動詞の活用パターンを一通り見てきましたが、補足として「むず」はサ変型、「ゆ」「らゆ」は下二段型、というのも一応覚えておいてください。

 では、練習してみましょう。

練習3 次の傍線部の助動詞の活用形を記せ。
 ①都ぞ花の錦なりける   (        )
 ②この女をこそ得    (        )
 ③頼むべからず      (        )
 ④源氏の君まかでさせ給ふ (        )

練習4 次の( )内の助動詞を適当な形に改めよ。
 ①京より下り(き)時に、      (        )
 ②あしと思へ(り)けしきもなくて、 (        )
 ③恐れの中に恐る(べし)けるは、  (        )
 ④何かあはれなら(ず)ん      (        )

 今回はここまでにしておきましょう。次回から、助動詞の意味を確認していきます。
 なお、前回の復習問題の解答と、補強問題を掲載しておきますので、確認してください。


練習1・解答
 ①花咲くべし。  (  終止形   )
 ②花咲くごとし。 (  連体形   )
 ③滝落ちけむ。  (  連用形   )
 ④滝落ちむ。   (  未然形   )

練習2 次の[ ]内の語を適当な形に改めよ。
 ①風[吹く]じ。   (  吹か  )
 ②人[尋(たづ)ぬ]けり。  (  尋ね  )
 ③思ひ出に[す]む。 (  せ   )
 ④花[美し]べし。  ( 美しかる )

練習3 次の傍線部の助動詞の活用形を記せ。
 ①都ぞ花の錦なりける   (  連体形   )
 ②この女をこそ得    (  已然形   )
 ③頼むべからず      (  未然形   )
 ④源氏の君まかでさせ給ふ (  連用形   )←「給ふ」は用言

練習4 次の( )内の助動詞を適当な形に改めよ。
 ①京より下り(き)時に、      (   し    )
 ②あしと思へ(り)けしきもなくて、 (   る    )
 ③恐れの中に恐る(べし)けるは、  (  べかり   )
 ④何かあはれなら(ず)ん      (   ざら    )←「ん」=「む」

復習問題2・解説
問一
 ①は問題ないでしょう。⑤終止形は「やむごとなし」、「て」を付けると「やむごとなく・て」となりク活用。⑦「滅ぶ」は「滅び・ず」となって上二段活用。下に「たり」が来ているので連用形になります。⑧終止形は「のどけし」。「て」を付けると「のどけく・て」となりク活用。⑨「ゐる」は覚えておくべき動詞で、上一段活用。ちなみに、ワ行の表記は「わ・ゐ・う・ゑ・を」です。⑩「恐る」は「恐れ・ず」となり下二段活用。⑪、⑫は問題ないと思います。
問二
 一文字動詞「経(ふ)」ですね。「へ・へ・ふ・ふる・ふれ・へよ」と活用しますが、本文では「経・たり」と下に「たり」があるので連用形、読みは「へ」です。
問三
 古文単語も少しずつ覚えていきましょう。「やや」は「やうやう」と同じで「しだいに/だんだんと」の意味。現代語と混乱しないように。「おのづから」は「自づから」と漢字が当たり、「①自然に」の意味は覚えやすい。そこから「②たまたま」の意味も出てきて、さらに「③ひょっとすると」と意味が派生します。ここは②の意味。
問四
 「かくる」は漢字で書くと「隠る」になります。こうすればわかりやすいでしょう。「ず」を付けると「かくれ・ず」になり、ラ行下二段活用。連用形は「かくれ」です。


補強問題2A(用言の判断)

1 傍線部の語を文法的に説明せよ。

 ①本意のごとく会ひにけり。        (               )

 ②行く川の流れは絶えずして、      (               )

 ③母の命尽きたるを知らずして、    (               )

 ④ある人、弓射ることを習ふに、    (               )

 ⑤ひがごとん人をぞ、            (               )

 ⑥死ぬることのみ、機嫌をはからず。(               )

 ⑦とんで火に入る夏の虫。          (               )

 ⑧いと心にくからめ。              (               )

 ⑨漫々たる海上なれば、        (               )

 ⑩同じう死なば、                  (               )

 


補強問題2B(用言の活用)

1 次の( )内の動詞を適当な形に改めよ。

 ① 心なしと(見ゆ)者にも、          (             )

 ② (悔ゆ)ても遅ければ、            (             )

 ③ 猛き者もつひには(滅ぶ)ぬ。      (             )

 ④ 沖より(寄す)白波にも、          (             )

 ⑤ 尊くこそ(おはす)けれ。          (             )

 ⑥ 先達は(あり)まほしきことなり。 (             )

 ⑦ 聞きしにも(過ぐ)て、            (             )

 ⑧ 山までは(見る)ず。              (             )

 ⑨ うるはしき花こそ、(めでたし)。  (             )

 ⑩ (ならびなし)べきことなり。      (             )

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古典文法講座第五回

古典文法講座 第五回

 今回は、「形容詞」と「形容動詞」を扱います。
 「形容詞」は、終止形が「し」で終わる用言です。物事の性質や人の心情を表し、「ク活用」と「シク活用」の二つの活用の種類があります。「ク活用」は性質を表す語が多く(よし、高し、赤し、など)、「シク活用」は心情を表す語が多い(をかし、かなし、あさまし、など)という傾向があります。また、どちらも主活用の他に、「カリ活用」を持つことが特徴です。
 形容詞のある語が「ク活用」か、「シク活用」か見分けるには、助詞の「て」を接続させるといいでしょう。「ク活用」なら「くて」となり(よし→よくて)、「シク活用」なら「しくて」となります(美し→美しくて)。
 ちなみに、「シク活用」の活用パターンは、「ク活用」に「し」を加えたもの(終止形を除く)なので、そのことだけ理解しておけば十分です。
 では、活用表を示しておきます。

 形容詞は、もともとは主活用だけが存在していたようです。しかし、形容詞を述語として用いる場合、助動詞を接続することができませんでした。これはとても不便なので、形容詞の連用形に動詞「あり」を接続させ、そこに助動詞を接続させる、という形が生まれました。例えば、次のようなものです。
[例1] 高く・あら・む
 そして、この形容詞・連用形の「く」と動詞「あり」が融合して、「カリ活用」が発生したのです。
[例2] 高から・む
 したがって、「カリ活用」はラ変型活用です。そして、助動詞が接続する未然形・連用形・連体形と、主活用では存在しなかった命令形だけが「カリ活用」として配置されることになったのです。こういう経緯がありますから、活用パターンを覚える場合は、まず主活用「く・く・し・き・けれ」を覚え、その上で「カリ活用はラ変だ」としておくと、覚えやすいでしょう。

 さて、ここで二つほど、留意点を挙げておきます。
 第一に、未然形「く」「しく」は、「くは」「しくは」の形でだけ出現する、ということです。これらは「もしも~ならば」という意味になります(文法的には、「仮定条件」といいます)。詳細は助詞のところで説明します。
 第二に、形容詞「多し」のカリ活用は、終止形に「多かり」、已然形に「多かれ」という形を持つので注意してください。これは難易度の高い大学で問われることがあります。

 ここで形容詞の音便も確認しておきましょう。形容詞の音便は次の三つです。
①連用形「く・しく」→ウ音便=「う・しう」
 例 よく→よう、をかしく→をかしう
②連体形「き」「しき」→イ音便=「い・しい」
 例 たかき→たかい、かなしき→かなしい
③連体形「かる」「しかる」→撥音便=「かん、しかん」
 例 赤かる→赤かん、あさましかる→あさましかん
 
 形容詞ではもう一つ、「語幹用法」を覚えておきましょう。
1 「あな、【形容詞の語幹】」「【形容詞の語幹】の~や」で感動表現となる。
 例3 あな、をさなや…ああ、おさないこと
    めでたの人や…すばらしい人だなぁ

 この形は、現代語でも「ひど!」「やす!」と言ったりするのでなじみがあると思います。
 さて、次のパターンは確実に押さえてください。とても重要です。
2 「~を【形容詞の語幹】み」の形で、「~が…なので」の意味になる。
 例4 かたをなみ…干潟がないので
    里遠み…人里が遠いので(「を」が省略されることもある)

 形容詞はここまでです。
 次は、「形容動詞」です。
 形容動詞は、主として状態を表す用言で、「ナリ活用」と「タリ活用」があります。ひと目ですぐそれとわかりますが、連用形の「-に」「-と」の形には注意が必要です。

 活用表は次の通り。

 活用パターンは連用形だけ注意しておけば、あとはラ変型ですから、覚えるのにそんなに苦労はないでしょう。ちなみに、「ナリ活用」は和語的、「タリ活用」は漢字の反復を語幹とするので漢語的という違いがあります。

 それにしても、形容動詞はなぜ連用形にだけ「-に」「-と」という活用語尾を持つのでしょうか。これは次のように考えると合理的です。
 「-に」「-と」という形態の方が最初にあり、それに「あり」が接続・融合して「なり」「たり」という活用が発生したのだ、と。
 つまり、例えば「静かに」という形がまずあり、活用はなかった。これは自立語・活用なし・連用修飾語ですから、品詞は副詞になります。この副詞が、動詞「あり」に接続すると、「静かに・あり」となる。意味としては「静かな状態だ」ということでしょう。つまり状態を表現する述語が生まれるわけです。さらに、「に・あり」が融合して「なり」になる。形容動詞の誕生です。
 これは一つの仮説ですが、こう考えれば、形容動詞の連用形に「-に」「-と」という形があることが説明できると思います。

 さて、形容動詞の音便ですが、「ナリ活用」にだけ音便があり、連体形の「-なる」に推定系の助動詞「なり」「めり」が接続すると撥音便となり、「なん」になることがあります。

形容動詞の音便
 ナリ活用連体形 「-なる」+「なり/めり」→撥音便=「-なん・なり/めり」
 例 静かなる・なり→静かなん・なり
 ※撥音便は無表記になることが多いので注意

 では、形容詞、形容動詞について、練習してみましょう。

練習1 傍線部の語を文法的に説明せよ。
①木のさまにくげなれど、楝(あふち)の花いとをかし
②世はさだめなきこそ、いみじけれ
③侍(さぶら)ふ人も、さうざうしげなめり。
④翁(おきな)やうやう豊かになりゆく。
⑤汝がためにはよい敵(かたき)ぞ。

①にくげなれ   (                      )
 をかし     (                      )
②なき      (                      )
 いみじけれ   (                      )
③さうざうしげな (                      )
④豊かに      (                      )
⑤よい       (                      )

練習2 次の和歌について、空欄部を埋めて口語訳を完成させよ。
 [和 歌]湊風さむきうきねのかり枕都を遠み妹夢にみゆ
 [口語訳]港に吹く風が寒々とする、つらい船旅の宿りでは(          )あなたと夢でお会いしました。

 今回はここまでにしておきましょう。
 なお、前回と今回を範囲とする復習問題を掲載しますので、やってみてください。解答は次回に掲載します。また、末尾に前回の補強問題の解答を載せておきます。

 頑張ろう、東高!

練習1・解答
①にくげなれ   ( 形容動詞・ナリ活用・已然形         )
 をかし     ( 形容詞・シク活用・終止形          )
②なき      ( 形容詞・ク活用・連体形           )
 いみじけれ   ( 形容詞・シク活用・已然形          )
③さうざうしげな ( 形容動詞・ナリ活用・連体形・撥音便・無表記 )
④豊かに      ( 形容動詞・ナリ活用・連用形         )
⑤よい       ( 形容詞・ク活用・連体形・イ音        )

※「なし」は形容詞です/「いみじ」は、語尾が濁音ですが「シク活用」です。

練習2・解答
 [口語訳]港に吹く風が寒々とする、つらい船旅の仮寝では( 都が遠いので   )あなたと夢でお会いしました。

 復習問題2

 次の本文を読んで、以下の問いに答えよ。

 おほかた、この所に住みはじめし時はあからさまと①おもひしかども、今すでに五年を②たり。仮の庵も③ややふるさととなりて、軒に朽葉(くちば)深く、土居(つちゐ)に苔むせり。④おのづから事のたよりに都を聞けば、この山に籠(こ)もりゐて後、⑤やむごとなき人の⑥(かくる)たまへるもあまた聞こゆ。ましてその数ならぬたぐひ、尽してこれを知るべからず。たびたびの炎上に⑦滅びたる家またいくそばくぞ。ただ仮の庵のみ⑧のどけくして、恐れなし。ほど狭しといへども、夜臥(ふ)す床あり、昼⑨ゐる座あり、一身を宿すに不足なし。寄居(かむな)は小さき貝を好む。これ事知れるによりてなり。みさごは荒磯にゐる。すなはち人を⑩恐るるがゆゑなり。われまたかくのごとし。事を知り、世を知れれば、願はず、わしらず、ただ⑪静なるを望み、憂へなきを楽しみと⑫す。

問一 傍線部①、⑤、⑦、⑧、⑨、⑩、⑪、⑫を文法的に説明せよ。

問二 傍線部②は動詞の連用形である。読み仮名を記せ。

問三 傍線部③、④の古語の意味を記せ。

問四 ⑥(かくる)は、「亡くなる」という意味の動詞であるが、ここでは連用形にするのが適当である。「かくる」の連用形を記せ。

補強問題1A(品詞) 解答

1 次の単語の品詞を、以下の選択肢か選んで、記号で記せ。

 ①受く  ②されど  ③かかる  ④なし  ⑤さらに  ⑥あな
 ⑦しのぶ草  ⑧こそ  ⑨恐ろしげなり  ⑩けり

 選択肢
  ア 名詞  イ 連体詞  ウ 副詞  エ 接続詞  オ 感動詞
  カ 動詞  キ 形容詞  ク 形容動詞  ケ 助動詞  コ 助詞

2 次の傍線部の語の品詞を、1の選択肢から選んで、記号で記せ。

 よろづのことは、月見るにこそ①慰むものなれ。②ある人の、「月ばかり③おもしろきものはあらじ」と言ひしに、④またひとり、「露こそ⑤あはれなれ」とあらそひしこそをかしけれ。折にふれ⑥、⑦かはあはれならざら⑧。月花はさらなり、風のみこそ、人に心はつくめれ。岩にくだけて⑨清く流るる水のけしきこそ、時をもわかずめでたけれ。「沅・湘日夜東に流れ去る。愁人のためにとどまること⑩しばらくもせず」と言へる詩をば見はべりしこそあはれなりしか。


1 ①(カ ) ②(エ ) ③(イ ) ④(キ ) ⑤(ウ )
  ⑥(オ ) ⑦(ア ) ⑧(コ ) ⑨(ク ) ⑩(ケ )

2 ①(カ ) ②(イ ) ③(キ ) ④(エ ) ⑤(ク )
⑥(コ ) ⑦(ア ) ⑧(ケ ) ⑨(キ ) ⑩(ウ )

 

 

 

 

 

 


補強問題1B(動詞1) 解答

1 次の動詞の活用の種類を、以下の選択肢から選んで記せ。

 ①見る  ②死ぬ  ③思ふ  ④蹴る  ⑤受く
 ⑥をり  ⑦過ぐ  ⑧おはす  ⑨来

 選択肢
  ア 四段  イ 上一段  ウ 上二段  エ 下一段  オ 下二段
  カ カ行変格  キ サ行変格  ク ナ行変格  ケ ラ行変格

2 次の傍線部の動詞の、活用の種類(必ず行も記すこと)と活用形を記せ。

 ①「いかにぞ」と問へば、
 ②牛のかぎり引きいでて往ぬる
 ③来る音のすれ
 ④夏果てず。
 ⑤あの扇の矢を


1 ①(イ ) ②(ク ) ③(ア ) ④(エ ) ⑤(オ )
  ⑥(ケ ) ⑦(ウ ) ⑧(キ ) ⑨(カ )

2 ①(ハ行四段・已然形  ) ②(ナ行変格・連体形  )
  ③(サ行変格・已然形  ) ④(タ行下二段・未然形 )
  ⑤(ヤ行上一段・連用形 )

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古典文法講座第四回

古典文法講座 第四回

 今回は、「動詞」の続きから入ります。
 動詞に関しては、まだ何点か触れておかなければなりません。その第一は、活用行の判断についてです。ア行、ヤ行、ワ行は混乱しやすいので、注意が必要です。この点に関しては、鉄則があるので押さえて下さい。すなわち、
 ア行で活用する動詞は、「得(う)」一語である 
ということです。(例外はありますが、高校生には必要ありません)これさえ理解していれば、混乱は防げるはずです。例をあげてみましょう。

 例文 ①老いたる者、矢を②たるに、人の③植うる柿の木に当たれり。

 ここにはア行で活用する動詞は一語もありません。なにしろ、ア行で活用する動詞は、「得」一語なのですから。では、何行か。解答を記しましょう。

 解答 ①ヤ行上二段  ②ヤ行上一段  ③ワ行下二段

 説明するまでもないと思いますが、念のため。「老い」の「い」はア行ではないとすると、「やいゆえよ」の「い」しかない。「射(い)」も同じこと。「植うる」の「う」もア行でないとすれば、「わゐうゑを」の「う」しかない。それだけのことです。
 ちなみに、ヤ行上二段は「老(お)ゆ」「悔(く)ゆ」「報(むく)ゆ」の三語だけ、ワ行下二段は「植(う)う」「飢(う)う」「据(す)う」の三語だけに限定されるので、覚えておきましょう。

 さて、第二の注意点。次にあげる動詞は、活用の種類を間違えやすいので、独立して押さえる必要があります。
 「恋(こ)ふ」「恨(うら)む」
 活用の種類がわかるでしょうか。前回の講座で説明した手順に従って、考えてみましょう。
 まず、所属動詞を覚えておくべき活用の種類を確認する。上一段=「きみにいひゐ-る」、下一段=「蹴る」、カ変=「来」、サ変=「す」「おはす」、ナ変=「死ぬ」「往ぬ」、ラ変=「あり」「をり」「はべり」「いまそかり」。この中にはありませんね。ならば、先にあげた二つの動詞は、四段・上二段・下二段のいずれかということになります。その判定は、「ず」を付けることによって行うわけですが、ここで問題が生じます。「ず」を付けた形を記してみましょう。
 「恋ひ・ず」「恨み・ず」
 こうなります。現代語の語感と少し違いますね。それで混乱するのです。しかし、このような動詞は他にはそうありませんから、まずこの二つは別に覚えておきましょう。念のため、この二つの活用の種類を記しておきます。
 「恋ふ」=ハ行上二段、「恨む」=マ行上二段

 また、次に挙げる三つは、一文字の動詞で、混乱しがちですから、まとめておいた方がいいでしょう。
 「得(う)」=ア行下二段、「経(ふ)」=ハ行下二段、「寝(ぬ)」=ナ行下二段

 次に、第三の注意点。動詞の中には、二つの異なる活用の種類をもつものがあります。そして、活用の種類によって意味が異なるのです。その代表的な二例だけ、とりあえず押さえておいて下さい。

「頼(たの)む」
・四 段→「たよりにする」
・下二段→「たよりにさせる」
「給(たま)ふ」
・四 段→「尊敬」の動詞・補助動詞
・下二段→「謙譲」の補助動詞(会話文や手紙のみ、訳は「~です、ます」)

 「給ふ」については、敬語を解説する際に詳しく見ていきますので、とりあえず、二つの活用の種類があるのだ、ということだけ押さえて下さい。

 最後に、動詞の音便を確認しておきましょう。四段・ナ変・ラ変の動詞は、その連用形において、活用語尾が「い・う・ん・つ」に変化することがあります。これらをそれぞれ、「イ音便」「ウ音便」「撥(はつ)音便」「促(そく)音便」と呼びます。
 また、ラ変動詞では、連体形が撥音便になることがあります。
 音便において重要なのは、音便の四つの種類と、それらが連用形の活用語尾が変化したもの(例外は、ラ変動詞の連体形が撥音便になったもの)である、ということだけです。
 例を挙げておきます。
(例)
[連用形]
 イ音便‥書きて → 書いて
 ウ音便‥歌ひて → 歌うて
 撥音便‥死にて → 死んで
 促音便‥ありて → あつて

[連体形]
 撥音便‥あるなり → あんなり

※ラ変動詞と同じ活用をするものに、形容詞カリ活用、形容動詞、「なり」などの助動詞があります。これらの連体形も撥音便になることがあります。
 また、ラ変型活用の撥音便が無表記(文字化されないこと)になる場合があります。これは、「ん」という文字が生まれたのが、おおむね中世以降であったためと考えられます。
(例)
 海月(くらげ)のななり → 海月のなンなり〈「ン」が表記されていない〉

 では、ここまで述べてきたことをまとめておきましょう。

 

 

※補足
 念のため、二点ほど補足しておきます。
 まず一点目。同音異義語の動詞があるので、典型的なものを挙げておきます。
 「きる」 = 「着る」(カ行上一段)、「切る」(ラ行四段)
 「いる」 = 「射る」「鋳る」(ヤ行上一段)、「入る」(ラ行四段)

 次に、二点目。知覚動詞などでは、上代に使われた助動詞の「ゆ」と融合して、別の動詞になったものがあります。また、助動詞「す」と融合したものもあります。典型的なものを挙げておきます。

・「見る」系動詞
 「 見る 」(マ行上一段)‥「見る」の意
 「 見ゆ 」(ヤ行下二段)‥「見える」の意
 「 見す 」(サ行下二段)‥「見せる」の意

・「聞く」系動詞
 「 聞く 」( カ行四段 )‥「聞く」の意
 「聞こゆ」(ヤ行下二段)‥「聞こえる」の意

・「思ふ」系動詞
 「 思ふ 」( ハ行四段 )‥「思う」の意。
 「思(おも)ほゆ」「覚(おぼ)ゆ」(ヤ行下二段)‥「思われる」の意

 今回はここまでです。以下の練習問題をやってみてください。

練習1 次にあげる動詞の活用の種類を記せ。
  ①矢をたり。      (          )
  ②恨みざりけり。     (          )
  ③手づから植うる梅。   (          )
  ④あやまちを悔いてけり。 (          )
  ⑤美しうてたり。    (          )

練習2 次の傍線部の語を文法的に説明せよ。
  例  足うち折つて      ( 動詞・ラ行四段活用・連用形・促音便   )
  ①中にて転んで落ち      (                     )
  ②重きものを抱いたりして   (                     )
  ③おろかならぬ人々にこそめれ(                     )


練習1・解答
①ヤ行上一段活用  ②マ行上二段活用  ③ワ行下二段活用  ④ヤ行上二段活用
⑤ワ行上一段活用

練習2・解答
①動詞・バ行四段活用・連用形・撥音便
②動詞・カ行四段活用・連用形・イ音便
③動詞・ラ行変格活用・連体形・撥音便・無表記

 以下に前回の復習問題の解答と解説を載せておきますので、参照してください。

 頑張ろう、東高!


現代語訳
 尼君は、「なんと、まあ幼いこと。どうしようもなくていらっしゃいますね。私が、このように今日明日と思われる命であるのを、なんともお思いにならないで、すずめを慕いなさることですよ。罪を得ることだと、いつも申し上げているのに、情けないこと」と言って、「こちらへ」と言うと、(女の子は)膝をついて座った。顔つきはたいそうかわいらしくて、眉のあたりがけぶるようで、あどけなく髪をかきやった額のあたりや、髪の様子が、ほんとうに可憐である。成長してゆく様子を見てみたい人だなと、(源氏は)目をおとめになる。それというのも、この上なくお慕い申し上げる人に、たいそうよく似申し上げているので、自然と見守られるのだなあ、と思うにつけても、涙が落ちる。

解説
一 ①感動詞は、現代語訳すると「ああ」とか「まあ」とかなるものです。②自立語・活用なし。何に掛かっているか考えましょう。④「ほど」=「程度」⑦接続助詞です。⑨終止形は「いはけなし」です。
二 ③「おぼえ-ず」となり、下二段。⑤唯一のア行で活用する動詞です。⑧終止形は「ゐる」、覚えておく動詞です。⑩「とまら-ず」となって、四段。⑪終止形は「似る」、これも覚えておく動詞です。
三 ⑥「常に・聞こゆる・を」となります。⑫「涙・ぞ・落つる」となります。この問題に限らず、動詞の末尾を助動詞と勘違いしないよう注意して下さい。とりあえず、練習段階では動詞の活用表を作って確認することです。最初は面倒ですが、慣れて来ると瞬時に頭の中でできるようになります。
四 ア-「な~そ」の形です。とても重要です。イ-「さらに~ず」、呼応の副詞です。ウ-「やや」に注意しましょう。これは「やうやう」がつづまった形で、「だんだんと、しだいに」と訳します。

 

  ※復習問題1の補強問題を以下に掲載します。基礎事項をしっかり身につけたい人はやってみてください。解答は次回に掲載します。

 

 

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古典文法講座第三回

古典文法講座 第三回

 今回は、「動詞」です。
 動詞は、動作や存在の仕方を表す語で、この性格は現代語でも変わりません。口語文法と異なるのは「活用の種類」が九つある(四段活用・上一段活用・下一段活用・上二段活用・下二段活用・カ行変格活用・サ行変格活用・ナ行変格活用・ラ行変格活用)点です。
 物事というのは、時代が下るにつれて複雑になるというのが常識かもしれません。それは言葉も同じか、というと、そう単純ではないのです。ある領域は複雑化しますが、別の領域は単純化する、ということが起こるのです。動詞の「活用の種類」は、実は単純化され、口語文法では五つに統合されています。どのように統合されたか、下に示しておきます。
 四段活用・下一段活用・ナ行変格活用・ラ行変格活用 → 五段活用
 上一段活用・上二段活用              → 上一段活用
 下二段活用                    → 下一段活用
 カ行変格活用                   → カ行変格活用
 サ行変格活用                   → サ行変格活用 

 「活用の種類」が九つもあると、ある動詞が、どの活用パターンで活用するのか、判断に困る、と思うかもしれませんが、心配は無用です。九つのうち、六つまでは所属する動詞が少ないので、覚えてしまえば終わりです。残り三つは打消の助動詞「ず」を付けることで判断できます。このことを整理しておきましょう。

 まずは、所属動詞が少ないので覚えておく活用の種類です。
  

この中でもっとも数が多いのが上一段ですが、「き・み・に・い・ひ・ゐ+る」と覚えておけば、簡単に覚えられます。他には、「ひ・い・き・に・み・ゐ+る」という覚え方もあるようです。これ以外は1~4語ですから、問題はないでしょう。

 さて、残った「四段活用」「上二段活用」「下二段活用」は、それぞれ多くの動詞が所属していて、覚えるのは得策ではありません(ただし、慣れてくると、瞬時に見分けられるようにはなってくるのですが)。そこで、動詞に打消の助動詞「ず」を付けて、活用語尾から判断する、という判別の仕方を用います。以下にまとめておきます。
 

ご覧の通り、これらの動詞に「ず」を付けると、「ず」の直前の部分が、ア段、イ段、エ段に分かれます。これを利用して、四段、上二段、下二段を判断するのです。なお、慣れないうちは、「ず」の代わりに「ない」を使うという逃げ道もあります(咲く→咲か・ない、など)。

 さて、九つの「活用の種類」が、どのような活用パターンになるのかをまとめたのが次の表です。
 

この表で、四段~上一段にはローマ字の部分がありますが、これは「母音」を表しています。これに「子音」を加えると、各動詞の活用となります。
 例えば、「咲く」という四段活用の動詞ですと、語幹(動詞の活用しない部分)は「咲」、活用語尾「く」はカ行になりますから、「子音」は「k」。
 ka・ki・ku・ku・ke・ke = か・き・く・く・け・け
 これで「咲く」の活用表が完成します。なお、動詞の「活用の種類」を解答する場合は、何行で活用するかを示しておくことが通例です。例えば「咲く」なら、「カ行四段活用」と解答します。ここで注意しておきたいのは、上二段・下二段・上一段などで、活用しているのはローマ字の部分であることです。「る」「れ」「よ」は、言ってみれば活用に付随する「尻尾」。なので、例えば上一段活用「着る」は、カ行上一段活用です。当然、「ラ行」でも「ヤ行」でもありません。これは口語文法の「上一段」「下一段」でも同じことですね。
 ちなみに、下一段~ラ変は、活用「行」が限定されるので、各一種類で終わりです。
 それでは、次の活用表を完成させてみてください。

 

さて、本文中の動詞を文法的に判断する場合には、次の手順を踏みます。
  ①所属動詞が限定されている動詞かどうかを判断する。
  ②そうでない場合は、「ず」を付けて、活用語尾を確認する。
  ③以上、いずれかにより、活用の種類を決定する。
  ④次に、未然形~命令形まで活用させる。
  ⑤この活用表をもとに、活用形を決定する。
 慣れてくるとこの手順を踏まなくても瞬時に判断できるようになります。ただし、これだけでは活用形を決定できない場合もあります。というのも、異なる活用形に同一の文字が存在する場合があるからです。例えば、「花咲くべし」「花咲く時」というような場合、両者とも同じ形をしているのですが、実際には、前者は終止形、後者は連体形という違いがあります。これを判断するには、後に続く語が何形接続であるかを知らねばなりません。下に用言が来ていれば連用形、体言が来ていれば連体形等は容易でしょうが、やっかいなのは助動詞や助詞です。これに関しては後日まとめることとします。

 ところで、品詞分解をする際、「どこからどこまでが動詞かわからない」という声をたまに耳にします。そういう場合は、次の手順を踏んでみてください。
 ①語幹(変化しない部分)を決める
 ②その直後までが動詞
 ③ただし、活用の尻尾「る」「れ」「よ」に注意、そこまで動詞
(例)
 ①何とも思はずや   語幹「思」-直後「は」→「思は」が動詞
 ②四十にたらぬほどにて死なん   語幹「死」-直後「な」→「死な」が動詞
 ③老いをむかふる者   語幹「むか」-直後「ふ」-尻尾「る」→「むかふる」が動詞

 他には、打消の助動詞「ず」を接続させ、活用させて動詞の範囲を決める方法もあります。
 (例)
 ①舅にほめらるる婿  ほめ-ず→・め・む・むる・むれ・めよ→「ほめ」が動詞
 ②宵過ぐるほどに  過ぎ-ず→ぎ・ぎ・ぐ・ぐる・ぐれ・ぎよ→「過ぐる」が動詞

 こうした見分けも、やはり慣れてくるとほとんど問題なく対応できるようになります。
 では、次の問題を解いてみてください。

練習2 次の文中から動詞を抜き出し、文法的に説明せよ。

※「文法的に説明せよ」という場合、用言ならば「品詞・活用の種類・活用形」の順で記します。また、音便化している場合は、その種類を最後に記します。音便については、次回説明します。なお、今回は品詞が動詞であるということは明確ですが、練習ですので、品詞まで記しましょう。

 あからさまに聖(しやう)教(げう)の一(いつ)句(く)を見(み)れば何(なに)となく前(ぜん)後(ご)の文(ふみ)も見(み)ゆ。率(そつ)爾(じ)にして多(た)年(ねん)の非(ひ)を改(あらた)むることもあり。

   ①(   )           ②(   )

   ③(   )           ④(   )

【ヒント】「見ゆ」は下二段の動詞です。

 今回はここまでにします。第一回から第三回までの復習問題を掲載しますので、やってみてください。その解答は次回掲載します。

 頑張ろう、東高!

練習2・解答
 ①「見れ」-動詞・マ行上一段活用・已然形
 ②「見ゆ」-動詞・ヤ行下二段活用・終止形
 ③「改むる」-動詞・マ行下二段活用・連体形
 ④「あり」-動詞・ラ行変格活用・終止形

 

 

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古典文法講座第二回(改訂版)

古典文法講座 第二回

 今回は、まず「連体詞」から確認します。連体詞は名詞を修飾する語(連体修飾語)です。ただし、現代語で連体詞とされる「わが」「かの」などは「名詞+格助詞」とされるのでこの点は注意が必要です。読解や入試で重要な連体詞を以下に挙げます。


 次に、「副詞」を扱います。副詞は用言(動詞・形容詞・形容動詞)を修飾する語(連用修飾語)で、状態の副詞、程度の副詞、呼応の副詞があります。以下に、意味を押さえておくべき状態・程度の副詞と、呼応の副詞をまとめておきます。

※ 状態か程度か、はっきりしないものもあります。なので、この区分はあまり気にする必要はありません。むしろ、上記の語の意味をしっかり押さえておいてください。入試問題では、意味を問う問題としてしばしば出されます。

 次に呼応の副詞ですが、これは陳述の副詞とも言われ、主として文末の語と呼応して、不可能や禁止などの表現を生み出す副詞です。とても重要な文法事項であり、大学入試での頻出事項となっています。以下に主だったものを挙げておきます。

 さて、ここまで「連体詞」と「副詞」を見てきましたが、基本的には語と意味の一対一対応で、知識があれば対応できます。次の練習問題に取り組んでみてください。

練習1 次の口語訳の空欄を埋めよ。(解答は章末)
 ①なでふことなき人の、笑がちにてもの言ひたる。
 [口語訳](     )こともない人が、笑みを浮かべながら何か言っている様子。
 ②ありつる小(こ)袿(うちき)を、さすがに御(おん)衣(ぞ)に引き入れて
 [口語訳](    )小袿を、(           )お着物の中に引き入れて
 ③女君は、あらぬ人なりけりと思ふに
 [口語訳]女君は、(   )人であったなぁと思うにつけ
 ④薬も食はず、やがて起きもあがらで病みふせり
 [口語訳]薬も飲まず、(    )起き上がることもなく病み伏せっている
 ⑤契りきなかたみに袖を絞りつつ
 [口語訳]約束しましたよね、(     )袖を絞りながら
 ⑥心づきなきことあらん折は、なかなかそのよしをも言ひてん
 [口語訳]気にいらないことがあるような折は、(    )その理由を言うのがよい
 ⑦ところどころ語るを聞くに、いとどゆかしさまされど
 [口語訳]所々を語るのを聞くと、(    )知りたいという思いが増すけれど

練習2 次の古文を口語訳せよ。
 ①え進まず。        (                       )
 ②ほととぎす、な鳴きそ。  (                       )
 ③さらに見ず。       (                       )
 ④つゆまどろまれず。    (                       )
 ⑤をさをさ劣らず。     (                       )
 ⑥いまだ遠くはよも行かじ。 (                       )

 さて、ここまでが「自立語・活用なし」の品詞の解説です。
 続いては、「自立語・活用あり」の品詞になります。すなわち、「用言」(動詞・形容詞・形容動詞)です。名詞が「主語」になれることをその性質の一つとするならば、用言は述語になれることを共通の性質としています。
 用言には、「未然形・連用形・終止形・連体形・已然形・命令形」の六つの活用形がありますが、これは主として「用言の下に接続する語の違い」によって変化するのです。例えば、動詞「咲く」ならば、下に打消の助動詞「ず」が来ると「咲か」「ず」となりますし、下に助詞の「ども」が来ると「咲け」「ども」となるわけです。
 この六つの活用形には、それぞれ特徴がありますので、それをここで簡単に見ておきましょう。

 上記の内容は、助詞や助動詞の知識が必要だったり、他にも少し難しいところもあるので、当面、「そんなものか」と思っておいてくれればいいと思います。
 次回は、「用言」のうち、動詞を見ていくことにしましょう。

※ 「活用形」について、もう少し知りたいという人向けに、ちょっと蘊蓄を記しておきます。あくまで参考なので、興味があったら読んでみてください。

 まずは、「未然形」。この形は単独で出現することがありません。例えば、「咲く」という動詞なら、「咲か」と、単独で出現することがないわけです(他の活用形は単独で出現することが可能です)。つまり、動詞として未完成の形であり、そこから「受け身」や「使役」といった、動詞を大きく補完する助動詞がついたり、まだ実現していないことを想定する助詞・助動詞が付いたりするのです。「未完の形」と思っておけばだいたい間違いありません。
 一方で「連用形」は、「すでに実現している」ことを表す形です。なので、過去や完了の助動詞や、「て」のように時間の流れを表す助詞が付いたりするのです。
 「終止形」は、現在形というよりは「事実をそのまま表す」、いってみれば「原形」に近い形です。「京へ行く」という文は、「京へ行く」という事実のみを表し、現在・過去・未来といった時制とは、本質的に無関係です。こういう性質があるため、「事実」に「判断」を加える助動詞が接続していきます。
 「連体形」は名詞を修飾する形ですが、助動詞「なり(断定)」や助詞も接続します。これは実は、目に見えない形式名詞が下の語との間に存在していると考えるのが合理的です。こういう形式名詞は、現代語なら格助詞「の」が該当します。例を挙げましょう。「町へ行く」という文を名詞に変えて主語にしようと思うと、こうなりますね、「町へ行くのが楽しみだ」と。この「の」が古文の場合、隠れているのです。しかし、口語訳するとあぶり出されます。
 「女もしてみんとてするなり」→「女もしてみようと思ってするである」
 「月はくまなきをのみ」→「月は雲がないをだけ」
こう考えるならば、「連体形」は「体言に接続する形」と割り切ることができます。
 「已然形」はきわめて特殊な活用形で、順接・確定条件の「ば」、逆接・確定条件の「ど・ども」しか接続しません。他の用法は係助詞「こそ」を受けて係結びになることだけです。もともとは二つの文を接続させる形だったと思われますが、用法が限定的なので、これだけしっかり押さえておきましょう。
 「命令形」は、今も昔も変わらず命令する形ですね。言い切りなので、せいぜい語調を整える終助詞が付く程度です。

 ある程度勉強が進み、活用形の性格がわかってくると、文法問題の解決がずいぶん楽になります。「暗記」も大切なのですが、「理解」した方が定着しますし、また、楽しいと思います。今回はこれまで。

 頑張ろう、東高!

練習1・解答
 ①なんという ②さっきの/そうはいうものの、やはり ③ほかの ④そのまま ⑤お互いに ⑥かえって ⑦ますます

練習2・
 ①進むことができない
 ②ほととぎすよ、鳴かないでくれ
 ③まったく見ない
 ④少しも眠れない
 ⑤ほとんど劣らない
 ⑥まだ遠くはまさか行くまい

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古典文法講座第一回

古典文法講座 第一回

 今日から「古典文法」の解説をしていきます。本来ならば、国語の記述は縦書きなのですが、ホームページを活用しているため、横書きとなることをご容赦ください。
 さて、古文を読解するためには、「古文単語」「古典文法」「古典常識」の知識が必要となります。このうち、「古典文法」は体系的に学習していくのが効率的です。この講座では、文法の初歩から、段階を踏んで、最終的には大学受験にも対応できるレベルまで知識を高めていくことを目標としています。

 ところで、そもそもなぜ古典文法を学ばなければならないのか。それは、大学入試で出題されるから、というのも一つの理由ですが、やはり古典文法の知識がないと、古文を正確に読むことができないから、というのが主たる理由です。例えば、次の文はどういう意味でしょうか。

[例1]光源氏の、身も投げつべきとのたまひけんも、かくや。

 この一文には、難しい古語は使われていません。しかし、正確に意味をとることが難しい。実は、以下のような文法の知識が必要なのです。

 「の」格助詞・主格(~が) / 「つ」助動詞・強意+「べき」助動詞・意志(きっと~しよう) / 「のたまひ」動詞[尊敬語](おっしゃる) / 「けん(けむ)」助動詞・過去の伝聞・婉曲(~たとかいう) / 「や」係助詞・疑問(~か)

 このほかに「用言の活用形」や「挿入文の識別」なども必要となります。こうした文法の知識を活用すると、[例1]は次のように読むことができます。

[例1・直訳]光源氏が、「きっと身を投げよう」とおっしゃったとかいうのも、こうか。

 直訳なのでたどたどしい文になっていますが、だいたいの意味はわかると思います。やはり古文読解には、文法の知識が不可欠なのです。

 さて、文法の学習では、「文の構成要素」をはっきりさせるところから始めるのが一般的です。例をあげましょう。

[例2]よき細工は少しにぶき刀を使ふといふ。

 別に難しい文ではありませんね。これを構成要素に分割してみましょう。

[例3]よき/細工/は/少し/にぶき/刀/を/使ふ/と/いふ

 こうなります。ここで各構成要素の名称を明らかにしてみます。この名称を「品詞」といいます。

[例4]よき‥形容詞 / 細工‥名詞 / は‥助詞 / 少し‥副詞 / にぶき‥形容詞 / 刀‥名詞 / を‥助詞 / 使ふ‥動詞 / と‥助詞 / いふ‥動詞

 念のため、口語訳もつけておきましょう。

[例2・直訳]よい細工職人は少し鈍い刀を使うという。

 言葉は、品詞ごとに共通の性格をもっています。なので、まず「言葉を品詞に分け」、「品詞ごとに理解していく」のが、文法の学習として効率的です(ここからは、「言葉」を「単語」に置き換えます)。
 単語は第一に、「自立語・付属語」にわけられます。単語一語で意味を表すのが自立語、そうでないのが付属語です。次に「自立語・付属語」とも、「活用する・活用しない」にわけます。これを図にまとめてみましょう。

 

   この図を見てみると、中学校で勉強した口語文法と変わりはないことがわかると思います。つまり、品詞分類までなら、これまでの知識が通用するわけです。では、実際に分類してみましょう。

練習1 傍線部の語の品詞を答えよ。(解答は章末)
 ①のさま②にくげなれど、楝(あふち)の花③いとをかし
 ⑤かかるほどに男ども六人連ねて庭に出で来⑥たり
 ゆく河の流れは⑦絶えずして、⑧しかももとの水にあらず。
 ⑨あつぱれ、よからう大将軍に組ま⑩ばや

【ヒント】
 付属語は⑥と⑩ですね。自立語で活用がないのは①、③、⑤、⑧、⑨です。用言は、終止形がウ段なのが動詞(ラ変を除く)、「し」で終わるのが形容詞、「なり/たり」で終わるのが形容動詞です。

 さて、活用のない自立語のうち、名詞、接続詞、感動詞は、読解上さほど問題がないので、ここで簡潔にまとめておきます。

「名詞」
 物や事柄の名前を表しますが、これは古語も現代語もいっしょです。普通名詞(山、川、心、など)、固有名詞(紫式部、土佐日記、丹波、など)、代名詞(こ、そ、かれ、など)等があげられます。

「接続詞」
 文と文、語と語をつなぐはたらきをします。これも古語・現代語共通です。順接(されば、など)、逆接(されど、など)、転換(さて、など)などがあります。
 接続詞では、「さるは」が要注意です。これには順接・逆接の両方があり、【順】「それというのは」、【逆】「そうはいうものの」のどちらであるかを判断しなければなりません。

「感動詞」
 感動(あな、はつぱれ、あはれ、など)、呼びかけ(いざ、やや、いで、など)、応答(いさ、いな、えい、など)を表すのが感動詞です。

 本日はここまでとします。次回は、連体詞、副詞から入りますが、ここから大学入試でも重要な情報が増えていきますので、しっかり押さえていってください。

 頑張ろう、東高!

練習1・解答
 ①名詞 ②形容動詞 ③副詞 ④形容詞 ⑤連体詞 ⑥助動詞 ⑦動詞 ⑧接続詞 ⑨感動詞 ⑩助詞

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「古文学習のポイント」を掲載します

古文学習のポイント

 「古典文法講座」の開始に先立ち、今回は「古文学習のポイント」を簡単に説明しておきます。
 「古文の勉強は難しい」と思っている人も多いと思います。確かに、高校で勉強する古文は決して易しくはありません。しかし、ポイントを押さえて学習していけば、確実に読解できるようになります。そのポイントは、まずは3つ、「古文単語」「古典文法」「古典常識」です。順番に説明していきます。

Ⅰ 「古文単語」をマスターする
 読解の上で、キーとなるのが古文単語の知識です。古文単語は、意味の核を押さえて覚えていくと、忘れません。例えば、「はかなし」という形容詞では、「はか」が「目印」という意味を持っています。なので「はかなし」は「目印がない」だから「①頼りない」という意味になるのです。そして「頼りない」ものは「②つまらない、とるにたりない」でしょうし、「つまらない」ものは「③ちょっとした」ものだ、というように押さえておくと、忘れないでしょう。また、「はかばかし」は、「目印が二つもある」というところから、「①はっきりしている」という意味になり、はっきりしている人や事は「②しっかりしている」と、意味が派生してくるのです。このように同じ「核」を持っている古語は併せて押さえておくといいでしょう。
 さて、一方で、現代語をヒントに意味を捉える、という方法もあります。例えば「むつかし」という形容詞ですが、これについては現代語に「むずがる」という言葉が残っています。「赤ちゃんがむずがる」とは、「赤ちゃんが不快がっている」ということ。そこから、「むつかし」は「不快だ」という意味になることが押さえられるのです。なお、この場合に注意しなければならないのは、「むつかし」が現代語の「むずかしい」と違う意味だということです。現代語と意味が違っている古文単語は要注意。しっかり押さえましょう。
 ここで記した「意味の核」については、古語辞典や古文単語集に記されていることが多いので、その部分に赤線を引くなどして勉強していくと、知識がしっかりと定着していきます。また、類義語や対義語なども記されていることがあるので、それを整理して覚えていくと、古語の知識は飛躍的に伸びていきます。古文単語は300~400語ほど覚えておくと、古文を読むのに苦労しなくなります。英単語に比べれば、はるかに少ない数です。効率的に覚えていきましょう。
 なお、古文単語は、できれば「文」の中で確認しておきたいものです。古文単語集や辞書には必ず例文が載っていますから、ぜひ確認するようにしてください。

Ⅱ 「古典文法」をマスターする
 文法がわからないと読めない部分が古文には出てくると思います。主として、助動詞、助詞、呼応の副詞、敬語などでしょう。また、入試では文法問題がほぼ確実に出題されると言っていいでしょう。なので、文法はまず、簡潔かつわかりやすく整理したシート(もしくはカード)を作っておき、折に触れて参照するようにしてください。なお、入試でよく見かける品詞分析問題は、述語部分が問われることが多い傾向にあります。その場合は、「どこまでが用言か」という視点で見ると、間違えにくくなります。
 なお、古典文法については、次回からホームページで解説していきます。

Ⅲ 「古典常識」を身につける
 古文読解では、古典常識が身についていないと、見当がつかないということが時々あります。月の異名や十二支と方角・時間の関係、古代の国名などは基本ですから確認しておきましょう。また、平安貴族の暮らしや習慣などといったものも、知識があると読解がしやすくなります。このようなことについては、国語便覧を活用したり、参考書を参照したりして、一つ一つ身につけていってください。

 さて、当面身につけてほしい内容は上記Ⅰ~Ⅲで、そのうちⅡについては次回からホームページに掲載していきますが、さらにその先、「古文読解のテクニック」も以下に記しておきます。余裕のある人は参照してください。

1.古文を読むにあたって(1) 「主語を確定する」
 古文読解のテクニックとして第一にあげられるのが、「主語を確定する」ということです。日本語は主語が省略される傾向にある言語ですが、古文ではその傾向が顕著です。うっかりすると、「これはいったい誰のことだ」ということになりかねません。そこで、古文を読む上では、しっかり主語を把握しながら読むようにしてください。なお、主語がわからなくなった場合には、①敬語から主語を類推する、②接続助詞をヒントにして主語を考える、といった方法があります。このことについては、後日、具体的に解説します。

2.古文を読むにあたって(2) 「直訳する」
 古文読解テクニックの第二は、「直訳する」ということです。文意がとれている間は、古文のまま読んでいけばいいでしょう。しかし、「何を言っているのかわからない」という箇所が、古文では、よく出てきます。そのときには、一語一語直訳してください。そしてその直訳と文脈から、文意を考えていくのです。こうすることが難文解釈の一番の近道ですので、覚えておいてください。

3.古文を読むにあたって(3) 「敬語に精通する」
 古文では、敬語が頻出します。そしてこの敬語は、1に記したように主語確定における重要なアイテムなのですが、それだけでなく、人物関係を把握する上でも重要なものなのです。もちろん、入試でもしばしば出題されます。それだけに、しっかり習熟しておく必要があります。「敬語はむずかしい」と思っている人、決してそんなことはありません。古文の敬語はとても法則性が強いので、覚えておくべきことをしっかりと覚えておけば、あとは方程式を解くように正解にたどり着くことができます。このことについては、「古典文法講座」で解説します。

4.古文を読むにあたって(4) 「和歌に慣れる」
 あえて「慣れる」としました。和歌は、しばしば古文の中に登場し、そして重要な役割を果たすことが多いのです。しかし、三十一文字という、きわめて短い表現のため、省略や飛躍が多く、現代人にはわかりにくい部分があるのも事実です。また、和歌には多様な修辞法があるため、その知識も読解に必要となります。ただ、一方で、和歌はかなりワンパターンな性格の短詩です。同じようなパターンで出ることも多いので、慣れておくと、読解がかなり楽になります。一番いいのは、「百人一首」を読み込んでおくこと。ベストのテキストです。

5.読解のサポート(1) 「ジャンルの知識を活用する」
 古文には大きく分けて、「物語」「説話」「日記・紀行」「随筆」「評論」というジャンルがあります。ジャンルごとに性格がありますから、その知識を活用すると読解が楽になります。以下、各ジャンルについて概括しておきましょう。
(1)「物語」
 「作り物語」「歌物語」「歴史物語」「軍記物語」に大別されますが、主流は「作り物語」です。ほとんどが長編のフィクションで、登場人物が多数出てきます。人物確定、ストーリー追跡、心情把握の手順で読解します。「歌物語」は、和歌の詞書きが物語化したもので、短編が多く、和歌の背景把握と和歌の解釈が中心となります。「歴史物語」は「作り物語」に近いのですが、違いは登場人物が実在の人物であること。内容は歴史のエピソードであり、読解手順は「作り物語」とほぼ同じです。「軍記物語」は戦に取材した物語で、ほとんどが源平の争乱以降のもの。取り上げる題材が個性的で、その点に注意が必要ですが、読解手順は「作り物語」とほぼ同じです。
(2)「説話」
 神話・伝説・昔話・民話など、口承で伝えられたものを記録したもので、「仏教説話」と「世俗説話」に大別されます。説話は、もともとは「仏教説話」として誕生し(『日本霊異記』)、それが後に世間話のようなものにまでも包含するようになって「世俗説話」が誕生しました。比較的短編が多く、文体も平易で読みやすいものが多いのが特長です。ストーリー展開に興味の中心があることと、多くの場合、一つのテーマについて語られる傾向があるので、ストーリー展開とテーマを併せて確認していきます。
(3)「日記・紀行」
 「日記」は、日本独自の文学ジャンルで、江戸時代に至るまで書かれ続けます。基本的に一人称の主人公(つまり作者)の目から見た世界が描かれ、そこに作者の心情が語られるパターンになります。一人称の主人公は、主語として登場しないのが一般的ですから、文章ではそれを補って読むことになります。また、作者の「思い」が綴られるため、主観的な表現が多くなります。「心情理解」が読解のコツです。なお、「紀行」は、旅の日記と考えてよく、情景描写の比重が上がります。
(4)「随筆」
 「随筆」は、作者の関心事について、作者の考えや評価を記したものです。「日記」が身の回りの出来事に関する心情を中心とするのに対して、「随筆」は関心の幅が広く、また、理知的、あるいは思想的な記述となっています。読解においては、「何を」「どう考え」「どう評価しているか」の観点で追跡します。
(5)評論
 ほとんどが「歌論」ですが、後に「能楽論」「俳論」や国学の著作等が現れます。基本的に題材となっているものの批評が中心ですので、「題材は何で」「どういう基準で」「どう批評しているか」の観点で追跡します。

 以上、ジャンルについて概括しておきました。読解の参考にしてください。

6.読解のサポート(2) 「文学史の知識を活用する」
 文学史の知識があると、古文の読解上、大きなサポートとなります。文学史は「大地図」「中地図」「小地図」にわけて押さえておくとよいでしょう。
 「大地図」…上代、中古、中世、近世の大まかな文学の流れ。主としてジャンルに着目する。
 「中地図」…各期間ごとのジャンル別の流れ。主として作品群に着目する。
 「小地図」…各作品の概要と特徴。
 このような形で文学史を整理しておくと、作品名からかなりの情報を獲得できることができます。古文の読解上、とても有利です。なお、「大地図」については簡略なものをpdfファイルで添付しておきますので参照してください。ただし、この「大地図」には韻文の流れは記していない(スペースの関係で書き込めませんでした)ので、その点を補ってください。

文学史.pdf

【おわりに】
 古文は読みにくくて苦手だ、と思っている人もいるかと思います。実は、それはもっともなことでもあるのです。読みにくさの秘密、それは次の点にあります。古文の文章は、飛躍、省略、反復、脱線がけっこうある。それで読みにくいのです。ところで、これは、何かの特徴と一致してはいないでしょうか。そう、これは「話し言葉」の特徴です。実は古文は、「話し言葉」のように書かれた文章なのです(そして、それには訳があるのですが、ここでは割愛します)。そのことを頭に置いて、上記の事項を活用して古文を読んでいくと、古文が読めるようになります。
 このあと、「古典文法講座」で文法は解説していきます。「古文単語」については各自で主体的に学習を進めてください。「古典常識」と「読解」は、教科書や参考書等を活用して、できる範囲で取り組んでみてください。

 がんばろう、東高!

*上記の本文をpdfにしたものも添付しておきます。

古文学習のポイント.pdf

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東高生徒の皆さんへ ~国語の補講を開始します~

春日部東高校の生徒の皆さん、新型コロナウイルス感染拡大防止のため、学校は五月いっぱい休業となってしまいました。生徒の皆さんはとても不安な毎日を送っていることと思います。今回の事態は、私たち誰一人として経験したことのない緊急事態です。どうなるのだろうか、と、不安に思うのは当然のことです。しかし、この状況と不安とを乗り越えた先には、必ずまた、生き生きとした日常が帰ってきます。その日まで、足下を見つめて、今やるべき事をしっかりとやっていきましょう。私たち教職員も、できるかぎりバックアップしていきます。生徒の皆さん、頑張ってください!

さて、先生方も動画配信やClassiなどを使ってすでに皆さんの学習などのバックアップに入っているところですが、私も「校長だより」のページを使って、勉強のバックアップをしていく予定です。連休明けから「古典文法講座」を掲載します。興味のある人は参照してみてください。

それに先立ち、今日は「カード学習法」を紹介します。実は以下に掲載するパンフレット(pdfファイル)は、二年ほど前に依頼を受けて作成したものです。クリックして展開してください。参考になれば幸いです。なお、写真などが見づらいかと思いますが、ご容赦ください。

これから一ヶ月、頑張っていきましょう。

カード学習法(改).pdf

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