2020年10月の記事一覧
全校集会・校長講話
今日から10月です。このところめっきり涼しくなって、秋らしくなってきました。
秋といえば、実りの秋、食欲の秋ですね。いろいろな秋の味覚を楽しむことができる時期です。また、スポーツの秋、芸術の秋という言葉もあります。部活動に打ち込むのに絶好の季節ですね。運動部の諸君も文化部の諸君も、大会やコンクールがあるならば、ぜひ全力で頑張ってください。大会やコンクールがないとしても、日々の部活動を心から楽しんでください。ただし、三年生は進路の秋ですね。大丈夫、今やるべきことを一つずつ確実にこなしていけば、必ず実力はついてきます。頑張ってください。
そして、忘れてならないのが、読書の秋です。静かで落ち着いた秋の空気は、読書にぴったりですね。けれど近年、若者の読書離れ、本離れということが進んでいるという話も聞きます。一方で、スマホを使う時間がどんどん延びているようですね。
スマホで得られるのは「情報」です。情報は、何かの活動を便利にするために消費するものです。そういう点でスマホは便利なツールなのですが、特に目的もなく惰性でスマホを使い続けるのは、時間の浪費、そして人生の浪費になってしまいます。
一方、読書から得られるのは「体験」です。読書体験は、私たち自身の心に蓄積していって、私たちの人格を深めてくれます。そして世界の見方を高めてくれます。なのでこの秋、生徒の皆さんにはぜひ本を読んでもらいたいと思います。
今日は、私から三冊の本を紹介させてもらいます。
まず一冊目。『バッタを倒しにアフリカへ』という本。著者は、前野ウルド浩太郎。彼はバッタの研究者です。大学を出て、大学院で博士課程を修了しましたが、ポストがない、つまり仕事がない。そこで前野さんは一念発起、サバクトビバッタが暴れ回るアフリカ・サハラ砂漠に単身乗り込み、そこでバッタの研究をすることにしたのです、が。急に決めたことなので言葉もろくに通じない、砂漠に行けば迷子になる、夜の砂漠でサソリに刺される、などなど、彼の研究は波瀾万丈です。それでも明るい人柄と行動力で現地に溶け込み、やがて彼の研究者としての道が開けてくるというお話。理科系の本でありながら大笑いしてしまう、とても楽しい本です。そして、「好きなことを究める」大先輩がくれた大事なメッセージでもあります。
次は、小説です。ローベルト・ゼーターラーというオーストリアの作家が書いた『ある一生』という本。主人公は、不幸な幼年時代を送ったアンドレアス・エッガー。この一人の目立たない男が、二十世紀の歴史の片隅で、寄せては返す運命の波に翻弄される話です。彼を次々に襲う不幸、そして時に訪れる幸福、その様子を作者は淡々と綴っていくのですが、人間が生きるということをここまでどっしりと描ききった作品を、私は近年見ていません。そして印象的なのは、物語の終盤、主人公が自分の人生を「概ね満足のいく人生だった」と振り返っていることです。この一句を詠んだとき、私は思わず、「うーん、すごい」と唸ってしまいました。
最後は、北杜夫の作品、『どくとるマンボウ青春期』です。北杜夫さんは太平洋戦争終戦の年、旧制松本高校に入学しますが、そこでの高校生活を回想した本です。高校といっても、今の高校とは大違い、なにしろ「蛮カラ」なのです。「蛮カラ」というのは、粗野を装い、人の目を気にせず、思いのままに行動すること、あるいはそういう学生。北杜夫さんは寮に入るのですが、そこで「蛮カラ」な先輩たちから「ストーム」の洗礼を受ける。「ストーム」とは「嵐」ですよね。寮に巻き起こる嵐とはなんぞや。しかし、食べ物もない、生活用品もろくにない時代、ここに出てくる若者たちの姿はエネルギーに満ちています。また、登場する先生たちの個性的なこと。「教師からして変である」と北さんは書いています。もう昔の話であるのに、すぐ目の前にちょっとおかしな旧制高校の世界が広がっているかのような気にさせてくれる本。私も高校生の時、この本を読み、大いに笑いました。
ここにあげた三冊の本に共通しているのは、人に備わっているヴァイタリティ、今風にいえば「生きる力」だと思います。どの本からも「生きる力」が感じられ、そして読み終えた後、「生きる力」を分けてもらったような感じがします。このうち二冊は図書館にありますし、今はない「ある一生」も図書館で注文してもらいました。生徒の皆さん、ぜひ図書館に足を運んで、皆さん自身で気に入った本を読んでみてください。秋の夜は長いのですから。